アンドリュー・R・グラス
Andrew R. Glass DPM
足病医。2003年、ニューヨーク足病医学大学卒業。外反母趾、かかとやくるぶしの痛み、足底腱膜炎、いぼ、魚の目、巻き爪、スポーツによるけがなど足病全般を治療。米国で最も早い時期から低侵襲性外反母趾手術を手掛け、同手術の第一人者として知られる。The Academy of Ambulatory Foot and Ankle Surgery(AAFAS)認定医。www.nymidtownpodiatry.com
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足の親指が人差し指に向けて「くの字」に曲がり、親指のつけ根にたこ(腱膜瘤)が形成され、たこが靴に当たって激しく痛む外反母趾。悪化を防ぐために指の体操をしたり外反母趾用の装具を着けたりしても改善がみられない場合は、骨を切る手術で矯正するのが一般的とされている。一方で、骨を切らずに矯正する「Minimally Invasive Bunion Surgery(低侵襲性外反母趾手術)」の認知度も徐々に上がってきている。ヨーロッパやアジアに比べて米国ではまだ少ないという同手術を行う足病医、アンドリュー・R・グラス医師に、外反母趾の原因と低侵襲性(ていしんしゅうせい=体への負担ができるだけ少ない)外反母趾手術について聞いた。
Q つま先が細い靴やかかとの高い靴、足に合わない靴を長期間にわたり履き続けると外反母趾になると聞きますが、他にも原因はありますか?
A 若年で外反母趾になるのは、親指が人差し指より長い、または生まれつき扁平足の傾向がある人です。中年期以降は、肥満と筋力低下などによっても起きます。ただ何と言っても一番の原因は、幅が狭くつま先が細くなった靴を長時間履き続けることでしょう。このような靴を履くと親指のつけ根から先が圧迫されて変形します。また、かかとの高い靴は、つけ根にかかる力が大きくなり変形をさらに強くします。
Q どの段階で手術が必要と判断するのですか?
A 親指の変形が進むと指の筋肉も変形を助長するように働き、体操や防止用装具装着などの対処療法ではもとに戻らなくなります。靴を履いての歩行が困難になったり、靴を脱いでいても常時痛くなったりした場合は、手術が必要です。
Q 先生が行う低侵襲性外反母趾手術とはどんな手術ですか?
A その前に、これまで行われてきた外反母趾の手術について簡単に説明しましょう。最も一般的にされてきたのは、指の付け根の関節につながる甲の部分にある「中足骨(ちゅうそくこつ)」を骨切りして適切な方向や角度に移動させ、針金やネジなどで固定し矯正する手術、いわゆる「骨切り術」です。骨をずらすだけで関節は残るため、「関節温存手術」とも呼びます。この手術は、切開範囲が2〜3インチ(約5〜8センチ)と広く、傷跡が残る上、靴が履けるまでに回復するには約2カ月と時間がかかるなどの問題がありました。
これに対して低侵襲性外反母趾手術では、親指の付け根付近の腫れ「腱膜瘤(けんまくりゅう)」の下を5ミリほど切開し、そこから腹腔鏡と細長い器具を挿入し、手術部位を見ながら突き出た骨を慎重に削り取ります。そして反対側、つまり親指と人差し指の間を5ミリほど切開し、靭帯を切って、親指と人差し指の先を整えます。手術中はリアルタイムでX線画像を見ながら皮膚の下で何が起きているかもチェックします。
Q 低侵襲性と呼ぶくらいですから、患者への負担が少ないのですね?
A 手術時間は約30分と、あっという間に終わります。術後3日から5日で抜糸し、その時点で靴が履けるようになります。「骨切り術」のように骨を切って足の構造を変えていないので、回復までの期間も数日から2週間と短くて済みます。腫れや痛みもそれほどなく、感染症のリスクも「骨切り術」よりはるかに少ないです。縫合部分が少ないため傷痕もほとんど残りません。糖尿病を患う肥満気味の女性の低侵襲性外反母趾手術では、手術後に抗炎症剤と30日分の痛み止めを処方しましたが、彼女が痛み止めを服用したのは、手術後の最初の日に誤って足をぶつけたときの1回だけでした。
Q 先生は米国で最初に低侵襲性外反母趾手術を始めたそうですが、何かきっかけがあったのですか?
A 私自身が事故で大けがをし、その手術で大変な目に遭ったからです。膝の手術では金属板を入れ、口腔の手術では大きく切開したのですが、それがもとでいずれも感染症を起こし、大きな傷痕も残りました。手術による感染症や後遺症、傷痕が、いかに患者のその後の人生に影響を及ぼすかを身に染みて感じたので、負担をかけない、低侵襲性手術を始めました。現在はいくつかの医科大学でこの技術を教えています。
(了)
※低侵襲性外反母趾手術は主要健康保険の適用可