あれこれNY教育事情 子どもが学校に行かなくなったとき(1)出欠に関する法律

 千葉県で起きた児童虐待死事件の報道に触れ、米国にいながら心を痛めている人も多いだろう。亡くなった小学生が学校を長期間休んでいたことも報道されている。米国では義務教育中の生徒が学校を欠席した場合、非常に厳格な対応がなされる。日本も米国も子どもが何らかの理由で登校を嫌がった場合、保護者、学校、専門家が心を尽くしてケアする気持ちは同じだ。差があるとしたら、米国では司法の介入が日本と比べてより迅速に行われ、子どもが正当な理由なしに1カ月間学校から離れる環境を作らない制度になっていることだろう。子どもが学校に行かなくなった場合、米国でどのような対応が取られるのか、数回に分けて紹介する。

米国での不登校は即通報か?

「アメリカには不登校はない」と日本のメディアなどで目にすることもあるが、「日本のような形での不登校はない」が正しい。子どもがさまざまな理由で学校へ行くことができなくなるという問題は、世界中どの家庭にも起こり得ることで、米国でもそのよう家庭は多く、さまざまな支援や介入が行われている。出欠に関する決まりは非常に厳格で各自治体の法律で定められている。
 この米国方式が日本人家庭にはなじみのないことが多く、学校へ行きしぶる子どもを日本の不登校の場合と同様に対処をし、学校側とのコミュニケーションが十分でないと、保護者の教育義務の放棄(ネグレクト)として児童相談所の調査が入ったり、最悪の場合は、家庭裁判所への出廷を求められたりする。これは保護者のネグレクトで不登校を引き起こしていると疑われるか、逆に子どもが荒れて、コントロールが効かず、通学拒否をしているなどの場合だ。学校へ行かなくなるからといって、即座に警察や児童相談所へ通報されたり逮捕されたりするということではない。
 注意したいのは、子どもが学校へ行かなくなり、学校側がカウンセリングや児童精神科医の受診を含めた支援と介入を始めたときに、保護者がそれらを受け入れずにいることで、ネグレクトとみなされ通報される可能性があることだ。子どもが学校へ行きたがらなくなったときは、「様子見」などと日をおかずに、早期に学校とのコミュニケーションを図ることが重要だ。

学校へ行けなくなった子どもや家庭を支援する、非営利団体アテンダンスワークスのウェブサイト。各州の Chronicle Absence の定義が比較紹介されている

長期無断欠席とは

 米国の義務教育就学に関する法律(Compusoly School Attendance Law)は州ごとに定められ管轄機関の名称も異なるが、内容の大筋は変わらない。義務教育就学と長期欠席への対応は、公立および私立学校、オンラインスクールを含めたホームスクールの子どもにも適用される。米国での Absence(欠席)は、子どもが実際に通学しないということのみならず、学習環境から離れることも意味する。
 学校の欠席に関する規定で保護者が知っておきたいのが、「Turancy Policy」だ。これには司法が「長期無断欠席者(Turant)」扱いとし、子どもと保護者に介入が必要と判断する欠席日数が定められている。
 ニューヨーク州におけるTurancy Policy では、10日間継続または4か月以内に合計20日間の欠席があると、理由の有無にかかわらず、学校は生徒と保護者に対して調査と介入を始めることが義務付けられている。コネティカット州では、無断欠席が1カ月で4日間、1年で10日になると介入と調査が始まる。子どもの欠席が長引きそうだと感じたら、できるだけ早く学校に Turancy Policy を確認しよう。

無断欠席と理由ありの欠席

 Excused Absence(正当な理由を告げての欠席)では、病気、旅行、冠婚葬祭、競技会など欠席する理由と期間、保護者の署名を入れ書面で提出する。この書面は、紛失など万が一トラブルが発生した場合に証拠となるので保管しておく。学校が届け出用のフォームを用意している場合もある。提出先は、担任もしくは Attendance Officer と呼ばれる総務担当員。ニューヨーク州では病欠が3日以上継続する場合、医師の診断書が求められる。
 理由があっても報告しなければ、Unexcused Absence(無断欠席)とみなされる。
 ExcusedとUnexcused は遅刻、早退にも適用される。また、遅刻や早退を半日出席扱いとし、半日出席2回で欠席1日扱いになる場合もある。遅刻で午後のクラス点呼に間に合わない場合は、欠席扱いになる場合もある。誤って無断欠席と記録されるのを防ぐため、子どもを介して届け出るときは、確実に提出されているかを、レポートカード(成績表)や、インターネットの生徒個人のアカウントで、後日確認する。保護者が把握しない欠席を防ぐため、子どもの欠席を当日、自動通話で保護者に伝えるシステムも広がってきている。

細かく分かれる欠席の種類

 Truancy は無断欠席のみを指すのに対し、Absenceは理由の有無にかかわらず、謹慎期間も含めた全ての欠席を指し、欠席が一定期間以上(州により差があるが、概ね全登校日の10%)を超えた場合をChronicle Absence と呼ぶ。
 Truancy は義務教育就学法に反する生徒や保護者へ罰則を与えるための行政側の視点という側面が大きかったが、Chronicle Absence は、理由のいかんに関わらず長期欠席による学力低下が子どもの成長や将来に及ぼす悪影響が問題点として論議されている。
 次回は、児童相談所と家庭裁判所が介入するケースを紹介する。
(文/河原その子)

※米国で使用される用語の公式な日本語訳がなく、読者の子どもは米国の学校に通学中であるとの前提から、本文では米国で使用している言葉をそのまま使用した。また、日本語における「不登校」の定義と、「Chronicle Absence」の定義は同じではない。「Chronicle Absence」には日本の「不登校」状態も含まれるが、同じ意味ではないため、本文中の用語を不登校とは訳していない。

参考になるウェブサイト

教育放棄(NY州教育局)
www.p12.nysed.gov/sss/pps/educationalneglect

就学規定(NJ州児童家庭局)
NJ Dept. of Children and Families
www.state.nj.us/education/students/safety/behavior/attendance

Truancy Policy(NY市教育局)
www.schools.nyc.gov/school-life/rules-for-students/attendance
 
登校支援団体 Attendance Works
www.attendanceworks.org

登校支援団体 Absence Add Up
www.attendanceworks.org