連載219 山田順の「週刊:未来地図」 米中覇権戦争の行方:ファーウェイで2つに分断された世界(中) 

安上がり監視カメラに飛びついたアフリカ

 さらに、損得勘定から言うと、5Gインフラを整備する場合、ファーウェイを使ったほうが安価で済む。5Gインフラを提供できるのは、ファーウェイとZTE(中興通訊)の中国2社以外では、フィンランドのノキア、スウェーデンのエリクソンしかない。この2社を使うと、インフラ整備費用は倍増する。
 先進諸国の足並みが揃わないなか、ファーウェイは途上国市場を席巻しつつある。なんといってもインフラ投資が安価で済むので、アジア・アフリカ諸国はファーウェイになびく。
この2月、モロッコのラバトで開かれた「アフリカ安全保見本市」(ASEC:African Security Exhibition andConference)で、ひときわ大きな存在感を示したのはファーウェイだったという。ファーウェイの監視カメラネットワークは、すでにケニアやカメルーン、マリコートジボワールなどに導入されている。強権国家が多いアフリカでは、監視カメラが大歓迎なのである。監視カメラ普及の後は、5G網の整備だから、このまま行けば、アフリカの5Gインフラはほぼファーウェイに握られる可能性がある。
 中国国営新華社(Xinhua)通信によると、ファーウェイの機器はすでに100か国、700を超える都市に導入されており、うち25か国以上がアフリカだという。
 このように世界中で使われるようになったことで、ファーウェイは過去最高益を更新し続けている。3月29日に発表された2018年12月期の通期決算は、売上高が前期比19.5%増の7212億元(約11兆9000億円)。純利益は同25.1%増の593億元で、いずれも過去最高だった。

「一帯一路」に参加表明したイタリア

 ファーウェイは中国政府と関係ないと主張しているが、中国政府が進める「一帯一路」計画において、ファーウェイは重要な役割を担っている。「一帯一路」は、陸と海のシルクロードによって中国と欧州を結び、中国の覇権を拡大するものだが、ファーウェイはデジタルにおいて中国と欧州をつないでしまうことになるからだ。
 3月、中国の習近平国家主席はイタリアを訪問、ユーロ圏でいまいちばん経済苦境にあるこの国を、「一帯一路」に取り込むことに成功した。イタリアは、「一帯一路に関する覚書」に署名したのである。
 「一帯一路」に参加すると、地域開発やインフラ建設に関して、中国から莫大な援助が引き出せる。イタリアはこれに飛びつき、トリエステ港の機能強化へ乗り出すというのだ。
 ベネチアにも近いトリエステの港は、これにより、すでに中国が運営しているギリシャのピレウス港と繋がることになる。こうなると、海のシルクロードはスエズ運河から地中海を横切り、ギリシャ経由でアドリア海の最深部に達する。
 すでに陸のシルクロードはドイツ、オーストリアなどの鉄道網と繋がっている。イタリア経由で陸と海が繋がってしまえば、中国は全欧州の陸海空交通ネットワークを手に入れてしまうのである。
 中国は「一帯一路」への参加を「双方に発展をもたらすウィン・ウィンの関係」と謳っているが、はたしてそうだろうか?
 イタリアという国が、ここまでノーテンキな国とは驚きではないだろうか。もう、イタリアはファーウェイを排除できなくなるのは明らかだ。

なんと欧州14カ国が「一帯一路」に参加

 イタリアが、事実上“裏切った”ことで、EUはいま揺れている。そこで、ここまでの欧州諸国の「一帯一路」に対する態度をまとめてみると、次のようになる。

【一帯一路の覚書署名国】
 エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、スロベニア、クロアチア、ブルガリア、ギリシャ、マルタ、ポルトガル(14カ国)

 2017年、中国の李克強首相がハンガリーを訪問した。この際に、ハンガリーが参加。それを受けて、ポーランドやチェコをはじめとする中・東欧諸国が参加し、その後、ギリシャ、ポルトガル、クロアチアなど続いたのである。
 すでに欧州各国は、中国主導のAIIB(アジアインフラ投資銀行)に参加しているので、驚くべきことではない。
 しかし、「一帯一路」は、中国の世界覇権挑戦の手段であり、参加国を「債務の罠」で縛ることが明白になっている。アメリカは、公式に、この点で中国を非難している。
 したがって、それに続くファーウェイ排除は、アメリカが示した最後の「踏み絵」と言っていいだろう。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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