来月5日で満15歳。人間の年齢に換算すると76歳になるイチロー。加齢による白内障が進み、最近は寝ていることが多くなりましたが、5年前まではセラピー犬として活躍。ニューヨーク市内の高齢者施設や病院、学校などで、たくさんのお年寄りや入院患者、心身に障害を持った人たちを癒してきました。イチローをセラピー犬に育てたのは飼い主のラマンツ綾さん。きっかけは、18年前の9月11日、ニューヨークを襲ったあのテロ事件だったそうです。
—9.11が起きたときは、ボランティアを志願するニューヨーカーがとても多かったですよね。ラマンツさんも救援センターに駆けつけたのですか?
マンハッタン区のジャビッツセンターが救援センターになっていたので、テロの翌日、駆けつけました。でも募集していたのは、現場のがれきを解体できる溶接工や看護師の資格を持った人、被災者救援のためにニューヨークにやって来た人に宿泊場所を提供できる人などで、私にできそうなことは何もなかったんです。がっかりしながら募集要項をよく見ていくと、「ドッグセラピー」というのがあって、そこで初めてセラピー犬の存在を知りました。
—セラピー犬にしたくてイチローを迎え入れたのですか?
もともと犬と一緒に暮らしたいと考えていたんです。でも、9.11をきっかけに、セラピー犬を育ててみたいと思うようになりました。トイプードルを選んだのは、毛が抜けないからアレルギーを持った人にも安心だし、片手で抱き上げられるので、移動にも便利だから。2004年に生後2カ月でブリーダーから譲り受け、1歳半からセラピー犬の訓練を始めました。
—どんな訓練だったのですか?
アイコンタクトの取り方から始めて、人間の左側でさまざまな速度に合わせて歩く訓練を受けました。車椅子に乗った人や杖をついた人との歩行や障害物があるときの対応方法も学びました。驚かせても、びくついたり吠えたりしないような精神面での訓練もありました。週に1回、半年間訓練に通って06年に試験に合格、その後、半年間のインターンシップを経て、セラピー犬の養成・派遣を行う非営利団体グッドドッグ協会から認定を受け活動を開始しました。14年に引退するまで、少なくとも300回以上は施設などを訪問したと思います。私が仕事に行く前に施設訪問をしていたので、最後の方は私が疲れてしまったというのが引退の理由です。
—どんな仕事をするのですか?
高齢者や障がいを持つ人、がんや心の病気を抱える人を癒し、ときにはリハビリに寄り添うことで機能回復を補助します。愛情深く、飼い主に対して忠誠心を持つ犬の特性を生かした仕事です。
—8年間で忘れられないことは?
デイケアに行くのを嫌がっていたおばあちゃんが、イチローに会うために毎週おやつを用意して待っていてくれたことと、そこのスタッフがイチローのことをとても可愛がってくれたことですね。イチローは、訪問していたデイケアが近付くと、走り出して止まらなくてね。セラピーの仕事が大好きだったんだな、って。まさに「天職」だったと思います。
—おじいちゃんになったイチロー、ラマンツさんが今一番気にかけていることは何ですか?
白内障で視力が落ちたから散歩ができないけれど、お天気のいい日は抱っこして外に連れて出るようにしたり、仕事以外の外出を控えたりして、とにかく今は、なるべくそばにいてあげたいですね。甲状腺の機能が低下しているのでお薬を飲んでいて、歯肉炎など加齢特有の症状も進行中なので定期的な検査も必要です。
イチローが1歳のころから一昨年まで毎年一緒に里帰りしていましたが、飛行機に乗せるのはもう無理だし、かといって長期間家を空けるのも心配なので、昨年から日本へは帰っていません。高齢の母のことを思うと申し訳ない気持ちでいっぱいです。それでもイチローとの残り少ない時間も大切にしたいと思っています。
【 教えて!シンゴ先生 】
アニマルシェルター/動物病院のヒューメインソサエティー・オブ・ニューヨークで獣医師として活躍する添田晋吾先生にペットの健康について聞きました。
添田晋吾
1995年山口大学農学部獣医学科卒業。2000年に来米し07年に米国獣医師免許を取得。ヒューメインソサエティー・オブ・ニューヨークに勤務する傍ら、東洋と西洋の医学を併用し、老犬のペインコントロールやQOLの向上を目的とした獣医療にも取り組む。
Q いよいよ夏到来。高温多湿なこの季節は食中毒が心配です。今月は食べ物に起因する病気について聞きました。
A 犬や猫に与えてはいけない食べ物の代表的なものとして玉ネギやチョコレートなどがありますが、腐った食べ物や病原菌に感染した食べ物もまた食中毒の原因になります。
一般的に犬の嘔吐や下痢の80%以上は食べた物が原因といわれています。散歩中の拾い食いの他、台所に落ちた食材を食べた、人間の食べ残しや生ごみを漁った、また、飼い主が自分たちが食べているものを直接与えた、などといった場合です。特にこれからの季節は、たとえドライフードであってもペットフードを長時間外に放置しないようにしましょう。腐敗や劣化の原因になります。また、「ローフードダイエット」として生肉を与えている場合は、ペットのみならず飼い主も対しても病原菌感染のリスクを高めますので、より一層の注意が必要です。
ペットの食中毒の症状や程度はさまざまですが、一般的に多く見られるのは下痢や嘔吐、食欲減退、元気消失です。症状が進むと、重度の脱水、炎症性腸炎、さらには腎不全に至り、命に関わることもあります。
バーベキューの季節に多いのが、食べ物を胃や腸官に詰まらせるケースです。肉の塊や骨、トウモロコシの芯など、どんなに欲しがってもは犬には絶対に与えてはいけません。食べ物が消化器に詰まったときに起きる代表的な症状は、激しい嘔吐と食欲減退、元気消失です。異物を取り出すには緊急手術が必要です。処置が早ければ助かる可能性も高いですが、遅れると致命的です。
食中毒による一過性の下痢や嘔吐なのか、重大な病気の症状の1つなのかは簡単に判断できない場合が多いので、心配な場合は、主治医に相談することをお勧めします。