今回は、最近、気になっている「リテール・アポカリプス」についてまとめて伝える。日本語にすれば「小売崩壊」がもっともわかりやすいと思う。アマゾンなどによる「ネット通販」が拡大する影響で、街からデパート、スーパー、衣料品チェーン、家電量販チェーン、ドラッグストアチェーン、書店チェーンなどの「リアル店舗」がどんどんなくなっていくことだ。
この流れはいまのところ止まらない。となると、いずれ街の状況は大きく変わってしまうに違いない。
はたして10年後、街の姿はどうなっているのだろうか?
「ヨハネの黙示録」が告げる未来
5月30日、アマゾンジャパンは、スーパー大手のライフコーポレーションと組み、生鮮品や総菜をライフの店舗から届けるサービスを始めると発表した。これは、アマゾンの有料会員向けサービス「プライム」(Amazon Prime)内のサービス「プライムナウ」(Amazon Prime Now)でライフの商品の取り扱いを始めるということで、ライフの店員が消費者の注文品を店で集めて、それをアマゾンが配送するという仕組みだ。受注から最短2時間で消費者の自宅に届け、サービスは年内に開始するという。
このニュースを聞いて、ああ、これで日本でも「リテール・アポカリプス」(retail apocalypse)がさらに進むなと、私は思った。「リテール・アポカリプス」という言葉は日本ではほとんど使われていない。しかし、アメリカのメディアは2、3年ほど前から頻繁に使っている。
「リテール」は「小売り」、「アポカリプス」は新約聖書の「ヨハネの黙示録」のことで、「ヨハネの黙示録」はこの世の終わりを描いているので、この言葉は「小売り最後の日」という意味になる。ただし、単に「小売崩壊」としたほうがわかりやすいだろう。
実際、アマゾンなどの「ネット通販」による(Electronic Commerce:EC、電子商取引)の拡大で、デパート、スーパー、衣料品チェーン、家電量販チェーン、ドラッグストアチェーンなどの店舗販売を基盤とする小売業は、どんどん店舗閉鎖や廃業に追い込まれている。
アメリカでは、店舗を構えて対面販売を行う小売の会社を、「EC」に対して「ブリック・アンド・モルタル」(Brick and mortar:B&M)と呼んでいる。店舗が「ブリック」(煉瓦)と「モルタル」(建材)でできているからだ。
この「B&M」が、いまや危機的な状況にある。街から小売の店がどんどん消えようとしているのだ。
アマゾンが小売業界を窮地に追い込む
「リテール・アポカリプス」よりもよく使われている言葉に、「アマゾン・エフェクト」(Amazon Effect)がある。これは、アマゾンの通販ビジネスの拡大の「影響」(=エフェクト)で、小売業界が窮地に追い込まれているということを指している。「EC」と言えば、アマゾンの存在があまりにも大きいので、なんでもかんでもアマゾンのせいにされるのである。
実際、ここ数年の「アマゾン・エフェクト」の嵐はすさまじく、私が主に仕事をしている出版業界では、書店チェーンのボーダーズが経営破綻し、経営危機に陥ったバーンズ&ノーブルは店舗を縮小し、失地回復のためについに業態を変えた「バーンズ&ノーブル、レストラン」までつくってしまった。日本でも、大手書店チェーンは店舗数を減らし、TSUTAYAなどはもはや純粋な書店ではなくなってしまった。
以下、アメリカで、昨年から今年にかけて、どんな「リテール・アポカリプス」が起こったか(報道されたか)をまとめると次のようになる。もちろん、主なものだけをピックアップした。
・ペイレス・シューズ(靴):連邦破産法11条の適用を申請、全店舗2500店を閉鎖。
・ジンボリー(子供服):破産法11条の適用を申請、800以上の店舗を閉鎖すると発表。
・ギャップ(アパレル):2019年、2020年の2年間で230店舗を閉鎖すると発表。
・パフォーマンス・バイスクル(自転車):破産法11条の適用を申請、102店舗閉鎖。
・シャーロット・ルッセ(アパレル):破産法11条の適用を申請、94店舗閉鎖予定。
・シアーズ(百貨店):70店舗閉鎖予定。
・デスティネーション・マタニティー(マタニティウェア):42~67店舗を閉鎖予定と発表。
・ビクトリアズ・シークレット(インナーアパレル):53店舗を閉鎖予定と発表。
・Kマート(スーパー):50店舗閉鎖予定。
・クリストファー・アンド・バンクス(アパレル):30~40店舗を閉鎖予定と発表。
・JCペニー(百貨店・ホームファニチァー):27店舗閉鎖予定。
・ヘンリ・ベンデル(百貨店):2019年1月末までに23店舗全店閉鎖。オンラインストアも閉鎖。
・ロウズ(ホームセンター):20店舗閉鎖予定。
・メイシーズ(百貨店):9店舗閉鎖予定。
・Jクルー(アパレル):7店舗閉鎖予定。
・ノードストローム(百貨店):3店舗閉鎖予定。
NYの高級百貨店ヘンリ・ベンデルの閉店
このなかで感慨深いのは、ニューヨークの5番街に本店店舗をもつ高級百貨店ヘンリ・ベンデルの閉店だ。1990年代、ここのオリジナル、ストライプ柄のバッグやポーチ、財布は、日本でも大ブームを巻き起こした。当時の女性誌はどこもヘンリ・ベンデルの特集をやっていて、ヘンリ・ベンデルのストライプ柄アイテムは若い女性の間で引っ張りダコだった。
たしか、シンディー・クロフォードなどのスーパーモデルが愛用していたことから、ブームに火がついた。その後、「セックス&ザ・シティ」のなかでも、ストライプ柄アイテムはしばしば登場した。
当時、私は女性誌の編集者だったので、ニューヨーク取材の際にヘンリ・ベンデルに行き、ストライプ柄アイテムを何十個も買って、帰国後、編集部にばらまいた思い出がある。
そこで、昨年11月、たまたまニューヨークにいたので、何十年ぶりかでヘンリ・ベンデルに入ってみた。ドアを押して入ってみると、閉店セールをやっていて、そこには昔と変わらないストライプ柄のバッグやポーチなどがあった。
ヘンリ・ベンデルは創業123年の老舗である。そんな老舗で一時はニューヨークのファッションアイコンになったところまでも、時代の変化には勝てないのである。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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