すし屋でつまむ、極上の一品
タイムズスクエアの喧騒を背に歩くこと数分。レストラン街に佇む「寿司石」は江戸前に独自の解釈を加えた創作すしで知られる名店。この店が最近、割烹カウンターで旬の料理を食べさせると聞き、早速足を運んだ。
旬のものに一仕事、酒が進むのにはワケがある。
懐石料理人ならではの味
店に入ってすぐの寿司カウンターを横目に奥へ。見事な生け込み越しにキビキビとした動きを見せるのは奥田徹也さん。惜しまれつつ閉店した「寿司田」で、すしと並んで人気だったキッチンものと懐石料理を作ってきたベテランの料理人だ。「呑んべえ」を自認する奥田さんが得意とするのは、「酒が進む」料理。すし店の強みを生かし、豊洲直送の魚介を中心にニューヨーク近郊で採れた季節の野菜を組み合わせた一品料理を左党好みにアレンジ、懐石クオリティに昇華させている。
こだわりから生まれる味
水色の角皿が目にも涼やかな八寸=写真上=は、稚鮎の天ぷら木の芽ソース添え、生湯葉の刺身、ホタルイカの酢味噌和え、サワガニの素揚げ、海ぶどうのサラダ、トリュフの茶碗蒸し、エビと穴子の煮こごりの盛り合わせ。
稚鮎は体長7センチにも満たないが味は一人前。鼻腔を抜けるのは間違いなく清流の底に生えた苔の香りだ。木の芽ソースを味わったのは何年ぶりか。食感が楽しい海ぶどう、新鮮な黒土を思わせるトリュフが隠し味の茶碗蒸し…。香りと食感、味のバラエティーを計算し尽くした奥田流マジックだ。
ドングリを食べて育つことから特有の香りと家禽類のような食感のイベリコ豚はカツ仕立てで=写真中。キャベツではなくマーシュと絹さや、サンドライドアプリコットを付け合わせに、八丁味噌パウダーを添えている。褐色のパウダーは奥田さんの考案。豆腐もイカの塩辛もギョーザも全て手作りでないと気が済まないから、仕込みには人一倍時間をかけるという。「6月は鮎と空豆が旬。お客さんの喜ぶ顔を想像しながら、何を作ろうか考えるのが楽しい」と顔をほころばせた。
小上がりで食すすし懐石
日本酒ソムリエも控える寿司石は、知る人ぞ知る地酒の宝庫。日本産をはじめ、ウイスキーの品ぞろえは近隣店の中でも群を抜く。カウンターのみ、わずか5席のバーは2階にあるので、ちょっとした隠れ家気分も味わえる。
また、この夏からはすし懐石を1階の割烹カウンターと2階の小上がりで、コースとアラカルトで食べられる。「自分だけの行きつけにしたい」と思わせる店に、久しぶりに出逢った。
寿司石タイムズスクエア店
365 W. 46th St. (bet. 8th & 9th Aves.)
☎212-262-8880
www.sushiseki.com/timessquare