連載230 山田順の「週刊:未来地図」 リテール・アポカリプス(小売崩壊)(下)  私たちの周囲から「お店」がどんどん消えていく

「30分宅配」「ドローン配送」が実現した中国

 中国・北京在住の知人によると、中国でも「リテール・アポカリプス」は進んでいる。生鮮食品などを扱うオンラインスーパーの「お急ぎお届け競争」は凄まじく、最近では30分で届くというから耳を疑った。
 中国のECサイトと言えば「天猫」(Tモール)で、運営しているのは 阿里巴巴集団(アリババ)。そのアリババが始めた「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)は、専用アプリから商品を注文すると、最短30分で自宅、職場などに配送してもらえるという。
 「ただし、リアル店舗から半径3キロ以内です。私はその範囲に入っていたので、試してみたところ、本当に30分で届きました」と、知人。彼が住んでいるのは中国のシリコンバレーといわれる中関村エリアで、近所にリアル店舗がある。「リアル店舗に行って現物を見られるので、安心して注文できます。こうなると、忙しい人間は店に行くより、こちらを利用しますね」
 このモデルは、リアル店舗とECの組み合わせで、いまの主流はこちらと言えるだろう。
 中国のEC宅配で驚くのは、すでにドローン配送が、実際に行われていることだ。これは、「天猫」に次ぐ中国のECサイト2番手「京東商城」(JD)を運営する京東集団(ジンドン)が実現させたもので、ジンドンでは2014年にIT大手の騰訊(テンセント)と業務提携を結び、同社の電子決済「WeChatPay」(ウィーチャットペイ)を導入、さらにドローンを使った配送に乗り出した。
 ドローン配送は2016年から、西安などの大都市郊外の農村部で始まり、サービス地域を拡大しつつある。その仕組みは、ドローンの拠点から農村部の拠点にドローンを飛ばし、そこでスタッフが荷物を受け取り、注文主の自宅に届けるというもの。
 ドローン配送は、今後は都市部でも実現するというから、こうなると、リアル店舗は本当に少なくなっていくだろう。
 ちなみに、アマゾンは中国でも展開しているが、中国のネット通販に占めるシェアは1%にも満たない。シェアトップの天猫が55%、京東商城が25%となっている。

ウォルマートなどの「リアルの逆襲」

 「リテール・アポカリプス」により、本当に小売は崩壊し、リアル店舗は消えてしまうのか?
 じつは、そうは言い切れない。少なくなってはいくが、生き残るところはある。アメリカではそうした小売を「Amazon Proof(アマゾン耐性がある)」と呼んでいる。
 しかし、どうすれば「アマゾン耐性」ができるかは、いまのところはっきりしない。
 とりあえずの例として挙げられるのが、「リアルの逆襲」と言われるウォルマートだ。
 ウォルマートの場合、Jet.comなどネット通販企業数社を買収し、ネット通販の成長を加速させたことで、業績の落ち込みを食い止めた。リアル店舗とECを融合させたモデルを採用したのだ。これは、アマゾンがリアル店舗を持ち、ホールフーズを買収して傘下に収めたことと真逆である。
 ウォルマートの場合、もともと規模が大きいので、アマゾンに対抗できたといえるだろう。
 しかし、街にリアル店舗を構える中小規模の小売業では、たとえECと融合し、EC通販を進めてもうまくいくとは限らない。アマゾンと価格で戦うことははなから無理だからだ。リアル店舗の売上が落ちれば、クローズせざるを得なくなる。
 こう見ていくと、そこに足を運ばなければどうしても得られないものがある小売業者だけが、生き残っていくように思われる。また、単にモノを売るのではなく、リアル店舗でなければできない体験を売りにするという方法もある。
 ニューヨークの場合、おもちゃの老舗「FAOシュワルツ」は、プラザホテル前、59丁目の角の大型旗艦店を閉めて、3分の1の規模の新旗艦店をロックフェラープラザにオープンさせた。この新旗艦店は、おもちゃを並べて売るのではなく、子供たちにおもちゃを試させることにより、体験を売りにして成功した。

2026年までに約7万5000店が閉店

  アマゾンは、2018年10~12月期決算で、3四半期連続で最高益を更新している。
 しかし、北米を中心に売上高の伸びは鈍化が目立っており、投資家の間では「アマゾンより、アマゾン・プルーフ企業を狙え」という動きが起こっている。とはいえ、「リテール・アポカリプス」はアマゾンだけが起こしているのではない。
 UBS(スイス・ユニオン銀行)の最新レポートによると、EC(電子商取引)の普及によって、アメリカでは2026年までに約7万5000店の小売店が閉店するという。アマゾンは2018年、アメリカでの小売業の売り上げを350億ドル増やしたが、これは店舗数にして約7万700店に匹敵するそうだ。
 UBSレポートでは、衣料品店がもっとも打撃を受けるとし、2026年までに2万1000店(アメリカの衣料品店の17%)が閉店すると予想している。 次いで、家電製品や家具を扱う店も大きく影響を受ける。前者は約1万店、後者は約8000店が閉店するという。
 日本はアメリカに比べれば、いまのところ周回遅れだが、今後はアメリカと同じスピードで「リテール・アポカリプス」が進んでいくと思われる。
 あなたがいま買い物をしている店は、10年後、はたして街に残っているだろうか?
(了)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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