ニューヨーク市は、米国でも特殊かつ複雑な公立校進学システムを持つことは、これまで何度かこのコラムで述べてきた。複雑であることは好ましくないと思われがちだが、他の都市にはない多彩な教育プログラムがあるという利点も見逃せない。人種、経済的背景、障害の有無での教育機会の差をなくすための政策が推し進められ、それがニューヨーク市の公立校選びと進学のプロセスを複雑にしていることも否めない。そのため学校選びや進学を助けるコンサルタントの必要性が高まっている。 9月からの新学年開始を前に、2回にわたりニューヨーク市における学校コンサルティングについて紹介する。
学校コンサルタントとは何か
ここでいうコンサルタントは、日本の学校や塾における進学指導とは別物だ。また米国の現地校に配置されている、スクールカウンセラーやガイダンスカウンセラーとも違う。
学校コンサルタントとは学校外部の私設コンサルティングだ。キンダーから高校までの義務教育の学校進学システムを理解させ、子どもに合った進学先の選択肢を見つける。子どもが希望する学校へ進学できる可能性を広げ、必要であれば学習方法について相談に応じるとともに指導、支援する仕事だ。主な活動はセミナーやワークショップの開催、SNSでの情報発信、定期的なEニュースレター発行、個人カウンセリングが挙げられる。
これらの支援や指導は難関校や、有名校、人気校への進学だけに限らない。むしろ、それ以外の公立校への入学や進学を考える保護者対象ともいえる。なぜなら、難関校や人気校への進学を考える保護者は教育熱心であり、言われなくても必要な情報を自ら収集し準備する意図があり、その能力もあるからだ。
コンサルタントの発する情報が本当に必要なのは、進学システムが複雑であることを知らないままでいたり、関心がなかったりする「情報弱者」ともいえる。そのため公立校を対象にするコンサルタントの仕事は、保護者と生徒へより良い教育の機会を知ってもらうための社会的啓蒙活動の側面が強い。
難関校や人気校の進学ではないのに、なぜこれほど大袈裟にコンサルテーションや情報発信の活動が必要なのか? と不思議に思うかもしれない。それを説明するために、まずニューヨーク市で高校まで公立教育を受ける場合の大まかな道筋を紹介する(表1参照)。
表1は一般的な公立校進学の流れだ。1つの進学のプロセスに約2年がかかることが分かる。これにチャータースクール(授業料がかからないので公立校扱いだが、アプリケーションプロセスは別)や私立校を併願し、さらに授業料が無料のニューヨーク私立大学管轄の実験校、ハンター小学校とハンター高校の受験も視野に入れるとさらにやることは増える。何よりもこの進学プロセスを複雑にしているのは、進学先の学校が定める受け入れ生徒の優先基準(プライオリティー)と選抜方法(セレクションメソッド)がそれぞれ異なることだ。これらは同じ学校でも専攻するコース(プログラム)によって異なる。
改めて言うが、これは私立校「お受験」のケースではなく、「普通」の公立校進学のためのプロセスであり、ニューヨーク市の公立校に就学する全ての家庭がアプリケーションプロセスを通ることになる。保護者や生徒は、どの学校に入学したいかを考える前にニューヨーク市の公立校システムを知ることから始めなければならない。
市教育局(DOE)もそれは承知しており、ウェブサイトやSNSを充実させ広報に努めている。昨年末にDOEは公立キンダーと中学、高校で生徒のアプリケーションをもとにどのように学校へのプレースメントが決定されるかを説明したアニメーションを公開している。これは一見の価値があるのでぜひ見てほしい(表2参照)。
DOEは低所得なため進学に困難な家庭からアッパーミドルの裕福で教育熱心な家庭まで全ての学齢期の生徒を対象に情報を発信している。そのため丁寧ではあるが、逆に情報量が膨大でどこから手をつけていいのか分からなくなる保護者も多い。そこで役に立つのも、私設の学校コンサルタントだ。次回はさまざまなコンンサルタントの例を紹介する。(河原その子/舞台演出家、ライター、学校コンサルタント)