GPIFが筆頭株主になっている日本企業
GPIFと日銀などの公的マネーが日本株を買い上げた結果、何が起こっただろうか?
それは、日本の上場企業の多くでGPIFや日銀が筆頭株主になってしまったことだ。その数は2018年度時点で東証一部上場企業2064社のうち700社以上になる。
GPIFは保有株式銘柄を公表しているが、日銀は保有ETFの銘柄別内訳は公表していない。ただし、どちらも同じような個別銘柄を同じ規模で保有していると推定できる。GPIFと日銀などの公的マネーが集中しているのは、「日経225指数」の採用銘柄225社である。このうち、少なくとも180社で公的マネーが筆頭株主である。
では、具体的にどんな企業でGPIFと日銀が筆頭株主になっているのだろうか?
新聞や経済誌などのこれまでの記事から見ていくと、その筆頭は日本を代表する企業、トヨタ自動車である。GPIFと日銀はトヨタ株を約2兆円保有している。次いでソフトバンクグループ、三菱UFJフィナンシャルグループ、ファナック、本田技研、ファーストリティニング、KDDI、ソニーなどとなっている。
「運用で損したら年金を減らす」と首相
このように、私たちがこれまでに支払って積み立てられてきた年金資金は、いま、株式市場に投入され、はっきりいって「塩漬け」になっている。
いまのところ短期的な含み損は出しても、大幅に目減りはしていない。しかし、今後はわからない。それでなくとも、年間約7兆円を給付に回さざるを得ないのだから、いずれなくなるのは確定的だ。
かつて、2016年2月15日の衆議院予算員会で、安倍首相はGPIFの運用失敗を追及されたことがある。そのとき、「想定の利益が出ないなら当然支払いに影響する。給付に耐える状況にない場合は、給付で調整するしかない」と述べている。つまり、給付額を減らすと断言したのだ。
これをもってすれば、「2000万円不足」問題は、2000万円でも足りないのは明白だろう。日本が奇跡的な経済成長をとげ、株価が永遠に右肩上がりで上がっていかない限り年金は崩壊する。制度は持続できても年金の給付額が減り、それで日々の暮らしの半分も成り立たなくなれば、それは崩壊というほかない。
来年、2020年は5年に1度の見直しがある
現在、年金制度は5年に1度見直されることになっている。この次は2020年度である。ここで、はたしてどんな改正が行われるのかはわからない。ただ、支給年齢が上げられるのは間違いないだろう。ポートフォリオの見直しはないと思える。
なぜなら、年金の積立金運用はすでに利権化してしまっているからだ。 GPIFは官僚にとって格好の天下り先であるうえ、運用を委託された金融機関、ファンドは手数料ビジネスで巨額の収益を上げている。これを簡単に断ち切ることなどできようがない。
日本は財政赤字国で、巨額の赤字を毎年出し続けている。中東の産油国の政府系ファンドやノルウエーの政府年金が株式投資するのはわかるが、日本のような借金国の公的資金がこのような運用をしていいのだろうか?
これは、国が国民から借金をして株式市場で相場をはっているのと同じだ。
そう考えると、もはや年金問題をこれ以上先送りできない。一刻も早く制度を大幅に改正するなどしなければならない。一部では、納得がいく改正案も出ている。
しかし、そういうまっとうな意見は、政治に反映されないというのが、いまの日本である。情けないとしかいいようがない。
(了)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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