あれこれNY教育事情 子どもが学校に行かなくなったとき(3)公費での家庭教師派遣制度

 4月号では米国の欠席日数に関する法律、5月号では不登校になった生徒への児童相談所と家庭裁判所の介入について紹介してきた。米国では不登校になった場合でも自宅で学業を続けることができる。今月は公費で賄われる家庭教師派遣制度について説明する。

登校拒否と長期欠席

 病気による長期療養を除き、精神的な問題で学校に行けなくなる、学校へ行きたいのに身体症状が出て登校できない、「サボり」や非行による無断欠席を含め、長期間欠席が続く「不登校」状態を、米国では「クロニックアブセンス(慢性的欠席)」と呼ぶ。 学校へ行かない状態は同じだが、「スクールリフューザル(登校拒否)」 と 「トールアンシー(無断欠席)」には明確な差がある。
 登校拒否とは学校へ行きたいのに、朝になると腹痛などの症状が出て登校できない、不安感やうつ状態で自宅から出ることができなくなるなどの状態。原因はいじめ、学業へのストレス、友人関係のプレッシャーなどさまざまだ。登校拒否には早期介入が改善に繋がるとされ、学校への相談、カウンセラーや医師など専門家の介入や支援が奨励される。子どもの精神面に関するカウンセリング料金は、収入に応じて支払う方法を採用する施設や支援団体が多い。保護者がこれらの介入を拒み通学させないままでいると、教育放棄とみなされる場合もある。
 無断欠席は、「サボり」や非行などの長期欠席で、保護者が気づかないところで起きているケースが多い。保護者が子どもの長期欠席を認識しながら放置している場合や、ネグレクト(育児放棄)で学校へ行かせていない場合は、児童相談所や家庭裁判所の介入があり、場合によっては保護者の逮捕もあり得る。また、反抗、家庭内暴力、反社会的行動などで保護者が管理できない場合は、「PINS」(Person In Need of Support)と認定され、家庭裁判所の命令で、里親や更生施設へ送られるケースもある。これらのシステムは「PINS」「Family Assistant Program」のリンクに詳しい(下記の表を参照)。

不登校および派遣指導に関する参考リンク

派遣指導とホームスクーリング

 米国では、さまざまな理由で学校へ行けない、または行けなくなった義務教育期間中の子どもが学業や社会から遠ざからぬよう、教師を家庭に派遣して学習を続けるシステムが法律で定められている。これは「ホームバウンドインストラクション(派遣指導)」と呼ばれるもので、「ホームスクーリング」と混同されやすいが両者は別物だ。
 派遣指導は、通学できなくなった子どもの家庭に教師を公費で派遣し、一対一で学習を行うことで、1週間当たりの派遣時間も各自治体で定められている。家庭の経済力に関係なく、通学できない理由と状態により派遣指導が妥当と判断された場合に実施される。希望すれば自由に受けられるといった制度ではない。不登校中の一時的措置の意味合いが強く、状態が改善されれば、元の学校へ戻るか希望する他の学校へ転入する。
 ホームスクーリングは、義務教育の選択枝の1つで、家庭を拠点にした学習方法。子どもの登校状況に関係なく選択できる。不登校になった子どものために、ホームスクーリングを選択する家庭もある。
 派遣指導とホームスクーリングが混同されやすいのは、自治体によって名称が違うことも原因の1つだ。「ホームインストラクション」という呼称を「ホームスクーリング」と同義に定義する自治体もあれば、ニューヨーク市教育局のように「ホームバウンドインストラクション」を「ホームインストラクション」 と呼び、受講家庭を総称してホーム・インストラクション・スクールズとして学校区75の管轄に置くなど、自治体ごとに制度や呼称に特徴がある。

保護者の情報取集力と行動力

 不登校になって一番苦しいのは子どもだが、保護者も同様に心配や不安、将来の進学への影響などを考えて大きなストレスを抱えることになる。学校へ相談しても対応に差があり、特に選抜試験を実施する学校では、あからさまに転校を示唆されることもある。分業が進む米国の学校では、クラス担任が親身に相談に応じるというよりは、子どもの日常生活を知らないスクールカウンセラーが担当になり戸惑いを感じることもあるだろう。システムや法律が発達していることで、逆に欠席から、学校への相談、専門家の介入から派遣指導への流れが、「マニュアル通りに運ばれすぎる」と感じることもあるかもしれない。
 不登校はどの家庭にも起こり得ることだ。解決を急ぐあまり、学校側から一方的に聞かされる情報だけを鵜呑みにせずに、保護者が自力で情報を得て、落ち着いて行動することを望む。
(文/河原その子)

ニューヨーク市ホーム・インストラクション・スクールズの公式ホームページ