大阪で行われたG20(6月28~29日)は、予想通り世界の首脳たちの「顔見世興行」で終わった。いくら首脳たちが集まっても結局、世界のことはなにも決められないのだ。
そんななかでもっとも注目されたのがトランプ大統領と習近平主席による米中首脳会談だったが、これも成果なしに終わった。習近平は「敗戦」を受け入れられず、ただ粘る以外に打開策がないからだ。
となるとこの先、中国は世界経済からじょじょに排除され、「世界の工場」ではなくなる。経済がガタガタになり、元の「後進国」(途上国)に戻っていくのだ。まさかそんなことにはならないと思っている向きもある。しかしそれはとんだ見当違いだということを、今回は述べていく。
G20でいまだに中国に秋波を送る安倍首相
今回のG20でもっとも情けなかったのは、日米首脳会談の冒頭で安倍首相がこう言ったことだ。
「来年の桜の咲くころに習近平主席を国賓として日本にお迎えし、日中関係を次の高みに引き上げていきたい」
「外交の安倍」として評価されてきたというのに、この首相の世界観のなさには、これまで何度も驚いてきた。本人は「地球儀を俯瞰する外交」と自画自賛しているが、単なる「八方美人外交」「バラマキ外交」ではないかと思ってきた。
したがって今回もまたそれが出たと言えばそれまでだが、これほど情けなかったことはない。
いまさら、なぜ習近平を国賓として迎えるのか? そうすることで日本になにかメリットがあるのか?
と考えれば、誰が考えてもこれは愚の骨頂であろう。アメリカに攻められて窮地に陥っている中国に、なぜ、日本が手を差し伸べる必要があるのだろうか?
実際、習近平は大阪に来る前の6月7日、ロシアのセントピーターズバーグ(サントペテルブルグ)で、プーチン大統領に弱音をはき、さらに20日には北朝鮮に出かけて子分に過ぎない金正恩と相談している。
そんな状況だから、トランプと「仲がいい」という安倍首相の呼びかけは渡りに船。「いいアイデアだと思う」と笑顔で応じ、具体的な時期について調整を進めていく考えを示したのである。
トランプは余裕で一時「休戦」を宣言
これまで、このコラムで何度も述べてきたように、米中貿易戦争は「覇権戦争」であり、中国がいずれ敗戦するのは決まっている。したがって、そのプロセスを私たちはいま見ているにすぎない。ただ、戦いの局面局面で私たちは大きな影響を受ける。
とくに貿易戦争は世界経済に組み込まれている中国との経済関係を変えていかなければならないので、どの国にとっても大問題である。また、投資家にとっても、株価を含め、その動向に気を使わなければいけないので、気が気ではない問題だ。
それで今回のG20前に国際的な投資筋が期待したのが、「交渉の棚上げ」だった。つまり、トランプが追加関税第4弾、3000億ドルの発動を取りやめることだった。
トランプは、政治、経済、歴史のすべてにおいて無知である。しかも思いつきでものを言う。ただ、テレビタレントだっただけに、損得計算に長け、どうやったら視聴率が取れるかは知っている。また、自らをビジネスの天才と称するだけに、相手にできるだけふっかけては一気にハードルを下げる。そうして安心させてボッタくる。
今回もまたそうだった。
米中首脳会談前、追加関税の発動をちらつかせ、「ファーウェイについて議論する」と言ったものの、すべてを先送りしたのだ。トランプは会談後の記者会見で、中国との貿易交渉を続けるとしたうえで「新たな関税の上乗せは当面、行わない」と明言。さらに、ファーウェイへの措置を緩和するとまで示唆した。つまり、一時的な「休戦」宣言である。
しかし、これは今後、中国にとっては高くつく。なぜなら、ファーウェイへ制裁緩和はトランプの個人的暴走であり、議会は共和民主両党ともに怒っているからだ。また、関税をやめたのは景気を悪化させないためのトランプの選挙対策であり、アメリカが中国に対して譲歩したわけではないからだ。
結果的に、アメリカ側は交渉カードをすべて温存したわけで、中国の出方次第では、さらなるカードを切ることができる。しかし、中国側は今回ちらつかせた「レアアースの輸出制限」くらいしかカードがない。
北京政権内の対米強硬派と柔軟派の対立
貿易戦争が激化するなかで、北京の共産党政権内は二分されることになった。対米強硬路線でいくのか、それとも柔軟路線でいくのかである。
一時は柔軟派が力を持ち、アメリカに譲歩することで報復関税第4弾だけは免れようとしてきた。しかし強硬派はアメリカの最終的な要求が中国の民主化による欧米資本主義の完全な受け入れと知っているので、「一切妥協するな」と、声を強めている。
もちろん中国メディアは、すべてがアメリカを非難し続けている。トランプの「アメリカファースト」を徹底批判し、たとえば人民日報などは、「自らの利益を第一に置き、他者を顧みないような試みはいかなるものも支持を集めることはない」と主張してきた。
しかし、世界的なルールを無視し、自らの利益だけ追求しているのは、中国のほうである。
これまでのアメリカ側の要求は次の5点に絞られる。
1、知的財産・企業秘密の保護
2、技術の強制移転の禁止
3、国の補助金による競争政策の改正
4、金融サービス市場への自由なアクセス
5、人為的な為替操作の停止
これらのすべてに関し、北京は一時、法改正を目指すとワシントンに回答した。しかし、6月のデッドライン前にこれを完全撤回し、米中協議は停止された。
強硬派の最大の頭目は、“新皇帝”の習近平であり、彼がいまや国是である「中国の夢」政策を下ろすわけがないとこれまでは思われてきた。しかし、G20前の動きは、習近平のスタンスがかなり混乱していることを思わせた。
とくに、前記したロシアのセントピーターズバーグ訪問での出来事は、それを感じさせるに十分だった。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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