連載242 山田順の「週刊:未来地図」 政治家も有権者もメディアも日本はどうでもいいのか?(下) “無関心” 参議院選挙に思うこと

なぜいま改憲なのか?改正の中身は矛盾だらけ

 アベノミクスも消費税もスルーして、安倍首相が訴えていることは、たった2つである。
 1つは、憲法改正。「(今度の参院選は)改憲について議論する政党か、議論しない政党かを選ぶ選挙」と、首相は常々言ってきた。だから、選挙演説でもこのことを強調していた。
 しかし、その改憲というのは、第9条に自衛隊を明記することだから、あきれるばかりだ。9条2項には「戦力は、これを保持しない」とあり、不戦をうたっているのに、そこに自衛隊の存在を付け加えれば、まったくなにを言っているのかわからなくなる。どんなに頭のいい小学生でも、憲法を習ったときに、日本という国がどういう国か理解できなくなるだろう。
 もっととんでもないのは、憲法改正に反対するリベラルを自称する野党勢力だ。本来なら、アメリカの属国であることをいつも批判しているのだから、彼らこそ改憲を主張しなければ筋が通らない。
 なぜなら、日本国憲法は彼らが言う「平和憲法」ではあるが、それは「アメリカの平和」のための憲法だからだ。憲法9条が存在するのは、アメリカの安全保障のためであり、そのために日本に軍隊を持たせないことにしたのである。護憲派というのは、歴史もいま自分たちが置かれている現実も、すべて無視して、都合のいいことだけ言っている人間たちだ。
 いずれにしても、日本は人工的につくられた国ではなく、1000年以上にわたって自然に秩序が保たれてきた稀有な国だ。したがって、明文憲法などなくても、慣例法で十分にやっていける。よって、稚拙な改正をするくらいなら、憲法を破棄してしまったほうがましだというのが、私の考えだ。
 みなさんはどうお考えだろうか?

低レベルな野党攻撃と低レベルな野党公約

 安倍首相が訴えていることの2点目。それは、野党がいかにひどいかということ。実際、首相は、政策などそっちのけで、野党を攻撃した。
 たとえば、「民主党の枝野さん」と、わざと間違えて言う。そうして、「あれ? 民主党じゃなくて、いま立憲民主党ですね。どんどん変わるから覚えるのが大変」と皮肉くるのだ。たしかに、民主党政権下の日本は“悪夢”だったかもしれない。しかし、もう7年も前のことで、いまさらそんなことを言ってどうするのか。
 すでに、民主党はなくなり、野党勢力は分断されて、力を失ってしまっている。
 とはいえ、安倍首相にこき下ろされる野党のほうも、言っていることに、新味はなかった。ただ、実効性のない「甘言」をバラまいただけだ。
 立憲民衆党は、「立憲ビジョン2019」という政策を発表したが、「消費税増税凍結」「最低賃金1300円」「年金の最低保障機能強化」「待機児童解消と保育の質向上を優先」など、バラマキを並べただけだ。枝野幸男代表は、結党以来のキャッチフレーズ「まっとうな政治」を繰り返し強調し、「国民に寄り添う」と言っている。
 しかし、こんな政策では、寄り添われたほうが迷惑だろう。彼らは、市場経済が競争によって成り立っていて、それが成長、豊かさへの原動力であるということを知らない。もし、こんなバラマキ政策ばかりが実行に移されたら、日本はベネズエラになってしまう。

人気があるのは山本太郎「れいわ新撰組」だけ

 自民党も野党も仲間内の争いだけをしているなか、若者を中心にした貧困層に圧倒的に受けているのが、山本太郎「れいわ新撰組」だ。大手メディアはほぼ無視しているが、選挙演説では、もっとも人を集めた。
 山本の言葉に力があるからだろう。
 「あなたには力がある。あなたには力がある。たとえ何かを生み出せないとしても生きてていいんだよ。あなたには存在してるだけで価値があるんだから。そういうことを進めていきたい。それを認める社会を作りたい。そのメンバーがここに揃っています」
 と、山本は、れいわ新撰組を語り、立憲民主党などとは比べ物にならない、バラマキ政策を打ち出している。
 「消費税廃止」(増税停止ではなく、消費税の廃止)、「最低賃金1500円」「公務員増(=介護、保育人材などの増員)」「一産業所得保障」「全原発停止」「コンクリートも人も(=国土強靭化)」「奨学金徳政令」
 など、すべてが社会主義的政策で、財源など無視している。それで、財源はどうするのかという質問に対し、山本は「国債発行」と答えている。しかし、これ以上、国債発行をして緩和を続ければ、必ずインフレがやってくる。
 とはいえ、山本の訴えは本物で、なんとか、貧困層、一般層の暮らしを救いたいという彼の訴えは、どの政治家よりも迫力がある。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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