連載247 山田順の「週刊:未来地図」 ついにトランプ大統領が怒りのツイート! (上) なぜ中国や韓国が「発展途上国」なのか?

 米中貿易戦争が起こってから、世界中が貿易問題に注目するようになった。日本も、韓国を「ホワイト国」から外すという措置を間もなく決定する。
 そんななか今度は、トランプ大統領が中国や韓国がWTO(世界貿易機関)において「発展途上国」として優遇措置を受けているのは不当だとして、これを取りやめるためにあらゆる手段を講じることを宣言した。
 たしかに、世界第2位の経済大国である中国、そして、もはや途上国とは言い難い韓国などが、他国より貿易において優遇措置を受けていることはおかしいのである。そこで、いったいなぜ、こんな理不尽なことが行われているのかを検証する。

「WTOは壊れている!」とトランプが怒った

 トランプが、ついに怒りのツイートしたのは、7月26日。その内容は、次のとおりだ。

“The WTO is BROKEN when the world’s RICHEST countries claim to be developing countries to avoid WTO rules and get special treatment. NO more! Today I directed the U.S. Trade Representative to take action so that countries stop CHEATING the system at the expense of the USA! ”
(WTOは壊れている。それは、世界でもリッチな国々が、WTOルールを逃れ、発展途上国(developing countries)として優遇措置を受けているからだ。こんなことは終わりだ! 今日、私はUSTR(通商代表部)にアメリカの犠牲下でこれらの国がこの制度を不正利用するのを止めさせるよう指示した)(筆者訳)
 このツイートの前、トランプは「大統領令」(Presidential Memorandum)に署名し、それを受けてホワイトハウスはHPにそれを公開した。
 その内容を要約してみると、こうなる。

《WTOには、時代遅れの「先進国」「発展途上国」という区分が残っている。WTO加盟国の3分の2近くが自国を発展途上国と申告し、WTOのルールによって特別な待遇を受ける一方で、コミットメントを果たしていない。その国々というのは、購買力平価ベースによる1人あたりGDP上位10カ国のうちの7カ国にあたるブルネイ、香港、クウェート、マカオ、カタール、シンガポール、UAEと、G20参加国であるとともにOECD加盟国であるメキシコ、韓国、トルコ。そして、世界第2の経済大国の中国である。
 これらの国々は、裕福にもかかわらず、発展途上国の地位を主張し優遇措置を受けている。これは、世界の貿易にとって問題である。今後もこの問題を未解決のままにしてはならない。そこで、90日以内に進展がなければ、アメリカは独自に優遇処置を取りやめる》

第二次大戦の反省から生まれた自由貿易体制

 トランプは、いろいろと問題がある大統領である。しかし、この主張はもっともである。中国や韓国が、いまも「発展途上国」(developing countries)と知って驚いた人もいると思うが、実際、WTOにおいては、そのように取り扱われている。
 そこで、そもそもなぜそんなことになっているのか? を見ていきたい。
 WTOは1995年1月に設立された。その前身は、GATT(ガット:関税及び貿易に関する一般協定)である。GATTは1947年、第二次世界大戦の反省の下に、各国が署名した一種の協定(アグリーメント)である。
 大恐慌後の1930年代、世界は「ブロック経済」に突入した。有力国が同盟国や植民地を囲い込み、それぞれ閉鎖的な経済圏をつくったために世界は分断され、戦争を引き起こした。この反省から、関税や貿易障壁を是正していくことで、平和な世界をつくり出していこうというものだった。
 この精神は、WTOでも継承され、「自由」「無差別」「多角的通商体制」が、WTOの3大原則となっている。つまり、自由貿易の原則を守り、そのルールを策定し、紛争が起きた場合は解決していくというのがWTOである。
 現在、WTOには世界164カ国(地域)が加盟しているが、中国が加盟を承認されたのは2001年である。また、ロシアはアメリカの反対もあって2012年まで加盟を承認されなかった。この2大国の加盟で、いまやWTOはほぼ全世界を網羅する自由貿易体制となった。
 しかし、トランプは「WTOは壊れている!」と、指摘したのだ。これは、なにもトランプが初めて言い出したことではない。アメリカはもとより、欧州、日本などでも指摘されてきたことだ。

発展途上国かどうかは自己申請で決まる

 では、トランプが不満をぶちまけた発展途上国の優遇措置となんだろうか?
 WTO協定の条文では、これを「S&D」(Special and Differential treatment:特別のかつ異なる待遇)としている。
 すべての国際的な取り決めは、原則として国の規模や政治力、経済力などによらず、参加国が平等に取り扱われることになっている。ただし、WTOルールを発展段階の違う国に一律に適用するのは、現実問題として難しい。そこで、WTOでは発展途上国には優遇措置を与え、経済発展を促そうとしたのである。
 「S&D」を具体的に言うと、発展途上国は先進国から関税の免除あるいは特恵税率(一般の関税よりも低い税率)の適用を受けることができる。また、技術協力などの優遇を受けられる。さらに、貿易自由化の義務も一部免除されるなどだ。
 韓国の場合、2001年に特恵関税の対象外になった。中国の場合は、やっと今年から対象外になった。ただし、ほかの「S&D」は継続中である。
 そして驚くべきことは、自国が発展途上国か先進国かの判断が、WTOにおいては自己申告となっていることだ。つまり、これまでずっと中国と韓国は自国を発展途上国と言い張ってきたのである。しかも、他国がそれは違うと指摘してもWTOは全会一致が原則のため、それを覆すことができない。  
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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