連載253 山田順の「週刊:未来地図」長生きはいいことなのか?(中) センテナリアン(百寿者)の報道と現実のギャップ

センテナリアンの報道は現実を無視している

 このように、自治体が「長寿」(長生き)に対する姿勢を変えてきているのに、変わらないのがメディアだ。メディアは、いまだに長寿を礼賛し続けている。長寿をいいものとして、その現実を無視し続けている。
 それがひどいのが、敬老の日前後に行われるセンテナリアンの報道だ。100歳を超えて生きる人々を特集し、それがいかに素晴らしいことか? そして、その長寿の秘訣がどこにあるのか? ということばかり取り上げる。
 しかし、センテナリアンの現実は、メディアが特集するような素晴らしいものではない。長生きはいいことではなく、むしろ残酷で悲惨なものだ。
 私は医師兼ジャーナリストとして活躍している富家孝氏と長年付き合い、富家氏の本を20冊以上プロデュースしてきた。その過程で、高齢者の医療現場も取材してきた。
 その富家氏が、最近の「夕刊フジ」の連載『長生きは本当に幸せか?』のなかで、次のように書いている。

《(センテナリアンのメディア報道は)、センテナリアンのほんの一部、100歳になっても元気な人々の話にすぎないからです。センテナリアンには、日常生活が自分で行えない、不健康な人なほうが圧倒的に多いのです》

80歳を超えると日常生活に努力が必要に
 
 富家氏は、次のように述べている。

《人間、70歳を超えると、体力、知力の衰えを確実に意識します。私も、70歳を超えて、たとえば駅の階段の上り下りなどで、それを急に感じるようになりました。80歳以上の方に聞くと、「まだ70はいいほうだ。80を超えると、食事する、トイレに行く、寝るなど、みな努力が必要になる」と言います。
 私が医学生のころは、老化といっても、80歳、90歳まで生きた人間が少なかったので、想像できませんでした。まして、100歳というのはまったくの未知の世界でした。
 が、近年は老化の研究が進み、いろいろなことが判明しています。まず、認知症ですが、65歳以上の高齢者全体では約17~18%が認知症であると推計されています。年齢が高いほど認知症である人の割合は高くなります。85~89歳では約40%、90歳以上では約60%の方が認知症です。
 となると、センテナリアンは70%が認知症と推計されます。80歳、90歳をすぎて認知症の症状が進むと、家族の顔もまったくわからなくなり、ついには食べ物を食べ物と認識することさえできず、自分では食べられなくなります。
 次に筋力の衰えですが、加齢に伴い筋肉量は40歳くらいから低下します。これを、筋肉を構成する筋繊維でみると、その数は20歳代に比べ80歳代で半減します。加齢に伴ってもろく弱くなった筋肉をサルコペニアといい、これが、高齢者の転倒や寝たきりの原因になるのです。

 センテナリアンは例外的に、筋肉の衰えが少なかった人たちですが、それでも助けなしにちゃんと歩ける人は希でしょう。また、100歳を超えると、圧倒的に低下するのが、視力と聴力です。
 日本は「寝たきり老人」が諸外国に比べて多い国です。その数、200万人と推計されていますが、センテナリアンの多くがここに含まれるはずです》

 つまり、今年、センテナリアンが7万人を突破するといっても、そのうちのほとんどの方が、健康であるはずがない。むしろ、認知症が進んでしまっていたり、寝たきりになっていたりする人のほうが圧倒的に多いのである。
 そういうセンテナリアンは無視して、メディアは元気な人間だけを取り上げる。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。

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