鼻にストローが刺さったウミガメの発見
さて、今回の本題、「プラごみ」問題について、ここから述べてみたい。じつは、こちらのほうが、地球温暖化よりはるかに深刻な環境問題である。プラごみというのは、文字通りプラスチックのゴミのことだが、これによる海洋汚染は、近年、ますますひどくなっている。
たとえば、ハワイでは、海洋を漂って漂着するプラごみがあまりにも多くなったので、世界に先駆けてプラスチックのストローを禁止した。センセーショナルに報道されたので、覚えている人もいると思うが、鼻にストローが刺さったウミガメが発見されたことが、この処置の発端となった。
ウミガメばかりではない。大量のレジ袋を飲み込んだクジラも発見されている。
すでに、世界の海には1億5000万トンものプラごみがあり、年間800万トンずつ増えているといわれている。このうち回収されるのは年約8万トンというから、なんと100分の1しか回収されていない。
世界のプラスチックの年間生産量は、過去50年間で20倍に拡大。産業別の生産量では、容器、包装、袋などのパッケージが36%ともっとも多く、建設用16%、繊維用14%となっている。
このうち、リサイクルに回るのは10%ほどで、多くがごみとして廃棄されている。とくに、ペットボトルやレジ袋、透明カップやストローなど「使い捨て」になることが多いパッケージ用のプラスチックが、大量のプラごみとなり、海に漂っている。
最大の問題は「マイクロプラスチック」
こうしたプラごみのなかで、最近、注目を集めるようになったのが「マイクロプラスチック」と呼ばれる直径5ミリ以下のプラスチック片だ。
マイクロプラスチックは、2種類ある。一つは、最初から歯磨き粉などに混ぜる小さなプラスチック粒子(マイクロビーズ)として使用するために製造されたもの。これが、下水道を通じて海に放出されている。
もう一つは、海岸に漂着したプラごみが、紫外線や打ち寄せる波の影響を受けて、長い年月をかけて分解されてできたもの。いずれにしても、マイクロプラスチックは、通常では目に見えない。
マイクロプラスチックの大きな問題は、それを食べた動物プランクトンを魚が食べ、さらにその魚をクジラやサメなどが食べるという「食物連鎖」が繰り返されることにある。こうした食物連鎖の過程で、有害物質の濃度が次第に高くなっていくので、最終的に生態系を破壊してしまう。
日本でも、プラごみは、いまや深刻な問題となっている。
日本沿岸で回収された漂着ごみは年間約3万トンから5万トンにもなり、そのうちプラごみは全体の7割に達している。地点によっては、9割に達するところがある。
また、日本は、プラごみの大量排出国でもある。ハワイの海岸には、日本から流れ着いたプラごみも大量に発見されている。
これまでは中国が「ごみ捨て場」だった
海洋に漂うプラごみの排出国の「不名誉なランキング」が公表されている。ダントツの1位は中国、2位はインドネシア、3位はフィリピン、4位はベトナムとなっていて、海洋に接するアジアの国々がみな上位にランクされている。
なぜ、アジアの国々が多いのだろうか?
それは、日本などの先進国から廃プラを輸入してきたからだ。中国がダントツで1位なのは、これまでプラごみを含むあらゆる廃棄物を大量に輸入してきたからである。1980年代から中国は、世界各国から輸入した廃棄物を再利用することで、自国産業を発展させてきた。とくに金属類など産業廃棄物は、工業製品の原料として再利用してきた。プラごみも同様である。これによって、さらに大量の産業廃棄物が生まれたが、それらは河川や海洋に投棄され、自国内の環境と海洋の環境を汚染し続けた。
しかし、さすがの中国政府も環境汚染に耐えられなくなり、2017年にプラスチックを含む24種類のごみの受け入れを年内一杯で禁止すると発表。その後、2018年には、さらに16種類のごみの受け入れを禁止する方針を打ち出した。こうして現在、中国はごみの輸入をしない国になった。
その結果、廃プラは、規制の緩い東南アジア諸国に殺到することになった。とくに、インドネシアは、2018年に前年比で141%も増えた。インドネシア、フィリピン、ベトナム、マレーシアなどの東南アジア諸国が、中国に代わる世界の「ごみ捨て場」となったのだ。
しかし、今年の6月、バンコクで開かれたASEAN(東南アジア諸国連合)の首脳会議で、プラごみ問題が主要なテーマになり、東南アジア諸国はプラごみの削減に取り組むことになった。そのため、フィリピンやマレーシアは輸入を禁止し、ベトナムやインドネシアもこれに続こうとしている。つまり、日本はプラごみの捨て場を失ってしまったのである。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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