過去のどんなときよりいまは状況が悪い
もう遅いが、今回の消費税増税はなにがあっても止めるべきであった。これまでに2度も延期してきたのだから、できないはずがなかった。それがスルーできてしまったのは、ほとんど大手メディアの責任だろう。
大手メディアは、米中貿易戦争などで「世界経済の先行きが懸念される」「世界経済は減速している」と報道しながら、自国の景気についてはほとんど論評してこなかった。消費税の増税が景気に悪影響を与え、不況を招くのをわかっていながら、批判してこなかった。とくに大手新聞は軽減税率の適用を勝ち取ったので、増税反対の論陣を張らなかった。
しかし、今回のタイミングは過去のどんなときよりも悪い。安倍政権は2015年10月に予定した10%への引き上げを2回にわたって延期したが、その都度、その理由を日本経済や世界経済の悪化とした。それなのに、そのときより経済状況が悪いのだから、増税する理由は成り立たない。
ところが今回、政府はなにも言い出さない。消費税増税の影響で不況になったとき、「世界経済の悪化」を理由にするために、黙っているのだろうか?
現在、どんな指標を見ても、世界経済が今後減速し、景気の悪化が避けられないことがわかる。IMFは「世界経済アウトルック」(7月末発表)で、各国の成長率予測を軒並み下方修正している。日本の今年度の成長率は0.9%、2020年度は0.4%である。消費増税で、この0.4%はすっ飛ぶだろう。
賃金が増えないのに税金を上げたらどうなるか?
消費税の増税が、なぜ、それほど景気に影響を与えるのだろうか?
それは、日本人の賃金がここのところずっと上がっていないからだ。アベノミクスになってから、政府主導で春闘の賃上げが行われ、名目賃金はわずかに上昇した。しかし、それは日本の労働者の2割ほどにしかすぎない大企業の労働者だけの話である。
日本人の実質賃金は、よくて横ばい、だいたいにおいてマイナスを記録してきた。直近では、9月6日に、厚生労働省が7月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)を発表したが、それによると、実質賃金は前年同月比0.9%の減少で、7カ月連続で前年を下回っている。
日本のGDPの約6割が個人消費(内需)である。GDPは個人がモノやサービスを買うことで支えられている。しかし、収入が減っているなかで増税が行われるのだから、購買力は落ちるに決まっている。軽減税率など対抗策は取られているとはいえ、その効果はわずかだろう。
消費税が導入された1989年、日本経済はバブルのピークにあり、日本人の給与は上昇を続けていた。現在とは雇用形態も賃金統計も違うので正確な比較はできないが、当時は年率4、5%で給料は上がっていた。したがって、GDPに占める内需がマイナスになることはなかった。
しかし、2%引き上げられて5%になった1997年は、給料は平均1%程度しか伸びていなかったので、ダメージは大きかった。そして、前回の5%から8%に引き上げられた2014年は、給料は実質的にマイナスになっていたから、さらにダメージは大きくなった。
この教訓をなぜ活かせないのだろうか?
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。
2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。翻訳書に「ロシアンゴッドファーザー」(1991)。近著に、「円安亡国」(2015 文春新書)。
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