「成長なくして財政再建なし」の虚しさ
この30年間、日本は半鎖国しているような国だった。1980年代までの成功物語を繰り返すだけで、新しい物語を生み出せなかった。
そうしているなか、2回の大災害、阪神神戸大震災(1995年)と東日本大震災(2011年)に見舞われ、決定的に国力を失った。
「失われた30年」のうちの前半は、バブル崩壊の後始末に費やされた。不良債権の処理は進まず、金融改革も企業改革も進まなかった。
2000年代の小泉改革も成果はなかった。それなのに、アベノミクスでは金融緩和による物価引上げでデフレによる低迷を解決できるとし、異次元の金融緩和に踏み切った。しかし、資金実需がないためマネタリーベースは増えたが、マネタリーストックは増えなかった。マネーは社会に回らず、死蔵されただけになった。
そして、最悪なのが、政府が毎年赤字予算を組んでバラまきを続け、史上空前の財政赤字を積み上げていったことだ。なぜ、赤字国債を減らそうとしないのか? 「財政を健全化しろ」と、いまでは誰も言わなくなり、専門家から政治家まで「国内で借金しているので財政は破綻しない」という“神話”を信じ続けている。「成長なくして財政再建なし」と言っても、肝心な成長が未達なのに、借金だけを重ねている。
この悪循環が、ますます低迷を招く。成長したいなら、しばらくは借金を減らしてスリムにし、経済構造の転換を図らなければならない。
政治が経済に介入せず、余計な補助金で負け組企業を救わず、許認可権を振り回さず、企業活動を自由にすれば、日本経済は勝手に成長するだろう。
小選挙区制と政治家の劣化も大きな要因
評論家の大前研一氏は著書「日本の論点2019~20」のなかで、小選挙区制も日本の低迷の要因としている。
小選挙区制は、1994年に導入されたが、その後、日本の政治は大きく劣化した。政治家の質も落ちた。
小選挙区制の目的は、「定数2以上の中選挙区制から定数1の小選挙区制に移行して、政権交代可能な2大政党制を実現させる」というものだった。
その結果、いったんは民主党が政権を取るという政変が起こった。しかし、これは風向きの結果で、いったん風が吹くと一気にブームが起こり、振幅が大きくなるという弊害が起こるようになった。政党と政治家は風に乗ろうと、有権者に甘いこと、受けることしか言わなくなり、真剣な政策論争がなくなった。
最悪なのは、政治家が目先の選挙のことしか眼中になくなったことだ。そのため、地元に予算を引っ張る政治が強化されてしまった。こうして、天下国家や外交、大局的な問題を語れる政治がいなくなってしまったのである。
将来世代に対する犯罪を繰り返すだけか?
日本では「もう経済成長しなくてもいい」「成長より生活の質だ」などと言う人が多くなった。私も一時、「成長より縮小均衡して安定を保っていけばいい」と思ったことがある。
しかし、世界経済は全体で成長を続けているので、日本だけがそれから取り残されることは、日本人の暮らしの相対的な落ち込みを意味する。つまり、このままでは日本はどんどん貧しくなっていってしまう。
となると、いま日本の政治家、官僚、学者、専門家、メディアが、この状態を漫然と受け入れているだけで、過去を検証して反省しないのは犯罪ではないかと思う。
なぜ、安倍政権は、いま緊急の課題でもない「憲法改正」に突き進もうとしているのか? そんなことより、財政金融政策をもう一度見直し、この国を経済成長できるように思い切った構造改革を進めるべきだろう。
オリンピックをやっても、万博をやっても、カジノをつくっても経済はよくならない。
私たちの世代の犯罪は、この国の若者から未来を奪ったことだ。30年間の経済低迷で、財政赤字を増やして将来の世代にツケを回してしまった。年金、健康保険などの社会保障を減らし、消費税の増税まで行ってしまった。これは、将来世代に対する明確な犯罪だ。
いま、日本の将来に対して明確なビジョンを持ち、それを国民に訴えられる政治家はいるだろうか?
10月7日、「景気動向指数」の発表と同時に、国会(第200回臨時国会、衆議院本会議)が始まったが、メディアは「小泉進次郎、国会答弁デビュー」ということばかり報道している。
このままいくと、日本の「失われた30年」は、「40年」になることは確実ではなかろうか。
(了)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。
主な著書に「TBSザ・検証」(1996)「出版大崩壊」(2011)「資産フライト」(2011)「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)など。近著に、「円安亡国」(2015)「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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