先日、筆者が演出するダンス公演のリハーサル中に、他州から参加しているダンサーたちに各自の出身地の公教育におけるアート教育の実態を聞いた。
彼らの話を総合してみると、他州では、学内でのアート系クラスの他はPE（Physical Education =体育）やクラブ（日本の部活動にあたる）での活動が主で、アート専攻のコースを持つ公立学校が多数存在するという点でニューヨーク市は米国の中でも特別な街のようだ。加えて、トップレベルの芸術団体が有料・無料のプログラムを生徒たちに提供している。進学プロセスの複雑さから郊外への移住を考えつつも、この街だからこそ得られる多様なアートに接する機会を重視して、市内に留まることを選択する家庭も少なくない。今回はニューヨーク市教育局（DOE）が提供する、公立学校でのアートプログラムを紹介する。
小学校から開始
Special Music School
演奏家養成を目的としたニューヨーク市内唯一の公立小学校から高校までの一環校だが、中学進学前にオーデョションでの内部選抜がある。ニューヨーク市全域在住の子どもに受験資格がある。
キンダーへの受験はプリスクールの教師からの調査書、保護者が書き込むアプリケーション、子どもをグループにして音感やリズム感を観察するオーデョションがある。事前の音楽経験は問わない。中学以上の入学には演奏のオーディションがある。キンダーは１学年１クラスの少人数制で、学力もトップレベルを誇るため人気が高い。学校外のレッスンを奨励していないため、入学後にレッスン代がかからないのも人気要因の１つ。無料のため、「一か八かで」受験してみて、保護者も気づかなかった子どもの才能が見つかることもあるが、入学後、保護者は子どもしっかりサポートしなければならない。
Ballet Tech-The NYC Public School for Dance
クラシックバレエ専門の公立学校。ニューヨーク市全域在住の生徒が対象。４年生から始まる。オーディションは決められた日時に学校で行う場合と、一部の小学校への出張オーディション形式がある。空席があれば毎年挑戦できる。
中学校から開始
中学からは毎年、ＤＯＥが発行するMiddle School
Admission Guideおよびオンラインディレクトリーで各地の多様なアート系のプログラムを見つけられる（上の表を参照）。ここで知っておくべきことは、アート系に限らず、一般的に中学・高校は実質的に各学校が提供するプログラムへの進学ということだ。例えば１つの学校にアート系プログラムと一般教育のプログラムがある場合、希望すればその両方に申し込むことができる。ただし、入学後のプログラム変更はできない。ほぼ全ての公立中学およびプログラムは、学校別のオーディションの有無に限らず１つのアプリケーションフォームに希望する学校やプログラムを12校選んで申し込むが、以下の２校のみ特別なオーディション過程がある（詳細はMiddle School Guideおよび各校のウエブサイトで確認）。
Mark Twain Intermediate School for the Gifted & Talented
ブルックリン区コニーアイランドに位置する各種の「タレントコース」を持つ公立中学。ニューヨーク市全域在住の生徒が対象。スポーツ、数学、サイエンスなどの「タレント」に並び、アート、ダンス、メディア、演劇、管弦楽器、ボーカルなどの「タレントコース」がある。
Professional Performing Arts School , PPAS
マンハッタン区に位置する中高一環のパフォーミングアーツ専門の公立学校。演技、歌、ダンスの分野で専門家を目指す生徒への教育を行う。
高等学校から開始
高校からは大学進学や人生のキャリアとしてアートを目指す生徒のために、プログラムはより専門的になる。中学同様、ＤＯＥが発行するHigh School Directoryおよびオンラインディレクトリーに多様なプログラムが掲載されている。ファインアーツ、メディアデザイン、映画、ファッションなど、プログラムの選択肢も広がる。高校からは一部の例外を除き、全ての高校への進学はニューヨーク市全域の居住者が対象となる。次は代表的な高校。
Fiorello H. LaGuardia High School of Music & Art and Performing Arts
スペシャライズド高校の１つだがＳＨＳＡＴ試験はなくオーディションで選考する。生徒数が２５００人を超えるマンモス校。映画「フェーム」のモデルになったことでも有名。
Frank Sinatra School of the Arts High School
生徒数８００人の中規模校。学業面にも強いことで知られる。
Talent Unlimited High School
生徒数５００人の小規模校。生徒１人ひとりに対して細かな配慮が特徴。パフォーミングアーツのみ。
Art and Design High School
デザイン専門プログラム。メディア、イラスト（コミック含む）、プロダクトデザインなどコマーシャルアートに関する分野を学べる。
次回は、高校からのオーディションの準備、アートを目指す生徒のためのサマーキャンプ、学外でのオーケストラやコーラスなどＤＯＥが提供する無料プログラムを紹介する。
（河原その子／舞台演出家、ライター、学校コンサルタント）
ニューヨーク市教育局のオンラインアプリケーション
「My Schools」のホームページ。ページを下にスクロールすると、
登録せずに学校検索ができる「Brows NYC Schools」のリンクがある
