連載305 山田順の「週刊:未来地図」「新型肺炎」はいずれ収束する(上) 不安を煽る報道に惑わされてはいけない

 新型コロナウイルス による肺炎が、「アウトブレイク」(感染爆発)の様相を呈してきた。もはや、中東情勢や米大統領選などより世界の経済に与える影響が大きいことがはっきりしてきた。株価も下落している。不確実なものに対する不安が、新たな不安を呼んでいる。
 しかし、どう見てもこの騒ぎはいずれ収束する。問題は、いつ収束するかだ。また、この肺炎は、それほど恐れるものではない。こういうときは、連日の大報道に惑わされてはいけない。大局的に見ることが大切だ。

「新型肺炎」の呼び方が混乱している

 連日、「新型コロナウイルスによる肺炎」(厚生労働省の言い方)の大報道が続いている。ただ、この言い方は長ったらしいうえに言いにくいので、ここでは以下、単に「新型肺炎」と短くして述べていくことにしたい。
 ちなみに英語の報道では、この肺炎の元になるウイルスを単に「コロナウイルス」(Coronavirus)、あるいは「新型コロナウイルス」(Novel Coronavirus)としている例が多い。また、世界保健機関(WHO)は、このウイルスを「2019-nCoV: 2019 Novel Coronavirus」と正式に命名した。「2019年に発見された新しいコロナウイルス」という意味だ。しかし、これを一般的な報道には使えない。
 そこで、欧米メディアの多くは「Wuhan Coronavirus」、あるいは「China Coronavirus」としている。「Wuhan」は「武漢」のことだ。
 ただ、ウイルスは病原であり、症例は肺炎とほぼ同じなので、「Wuhan Pneumonia(武漢の肺炎)」と呼んでいるところもある。
 中国語では、「新型冠状病毒」または「武漢肺炎」としているので、こちらのほうがわかりやすい。ただ、「中国」「武漢」を名前に付けると差別的になるらしく、この言い方を日本では避けているようだ。私は、「香港風邪」「スペイン風邪」などという言い方があるので、これでいいと思うが、どのメディアもそうは呼んでいない。
 そこで、ここでも「新型肺炎」として述べていく。

クルーズ船が戻るので騒然となった横浜

 連日の新型肺炎の大報道のせいか、いま、街に出ると、半数以上の人がマスクをしている。マスクをしていないと、白い目で見られる。それで、マスクを買いにドラッグストアに行くと「売り切れました。入荷次第販売します」という貼り紙が貼られていた。
 私は横浜に住んでいるので、昨日(2月2日)は中華街に出かけた。出かけてみると。いつもの日曜のにぎわいはない。街はガランとして、人通りが少ないのに驚いた。
(編集部注:このコラムの初出は1日)
 日本でも現在、感染者は20人になり、二次感染、三次感染が心配されている。とくに明日は、横浜港に感染が確認された香港人男性が乗船していたクルーズ船が戻るとあって、市民に落ち着きがない。
 加藤厚生労働大臣は、今日の衆議院予算委員会でこう述べていた。

「船には新型コロナウイルスの症状かどうか別にして、熱があったり、ちょっと体調が悪かったりという方もいるので、横浜に入った段階で、しっかり検疫などで対応していきたい」

 このような検疫措置は、いまや世界中に広がった。アメリカでも欧州各国でも、中国からの入国者を検疫し、場合によっては入国を拒否している。
 こうした措置はウイルス感染の拡大を防ぐにためには当然のことだが、釈然としないのは、メディアの報道が大げさすぎることだ。

10日で病院を建設した中国を批判できるか

中国政府の対応が遅すぎた。WHOの「緊急事態宣言」が遅すぎた。WHOは中国に甘すぎるという批判があるが、いまさら、そんなことを言っても仕方ないだ
ろう。
 だいたい、WHOは世界の製薬メジャーのマネーに汚染された機関なので、きわめて政治的に動く。今回の件で潤うのは、今後、ワクチン開発を進める製薬メジャーにほかならない。
 SARSと同じく、またも発生源が中国とあって、日本の保守メディアや右言論は、「それみたことか」「中国は信用できない」「中国は衛生観念のない国だ」と、中国批判がかまびすしい。
 しかし冷静に見れば、中国の対応は共産党独裁だけにすごいと言うほかない。なにしろ、習近平主席の命令が下ってからは、徹底して感染防止(ウイルスディフェンス)に動いている。経済優先、人権無視の国が、大経済圏の1つである武漢市を閉鎖し、他の地域でも徹底して厳戒態勢を敷いた。驚くのは、武漢にたった10日間で広大な仮設病院をつくってしまったことだ。
 発表当初、まさかそんなすぐにできないだろうと思ったが、それができてしまった。
 この仮設病院のモデルは、SARSのときの2003年4月に北京郊外で建設された「小湯山医院」だという。このときもわずか7日間で完成し、その後2カ月間にわたって中国国内の患者の7分の1を受け入れ、騒動の収束に貢献している。
 もし、日本で同じようなことが起これば、都市の封鎖も短期間での病院建設もできないだろう。それを思うと中国の対応を批判する気にならない。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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