連載307 山田順の「週刊:未来地図」「新型肺炎」はいずれ収束する(下)不安を煽る報道に惑わされてはいけない

ワクチンの開発・生成は可能なのか?

 新型ウイルスの発生源がどうであれ、ワクチンができれば、撲滅は可能になる。ただし、専門家に聞くと、「一般的にワクチンの開発は、臨床試験などで実用までには2~3年かかる」と言う。
 インフルエンザが毎年流行するのは、ウイルスが何種類もあって、あるウイルスに効果があるワクチンがあっても、流行するウイルスの型が違えば効かないからだという。
 しかし、今回の場合は、そんな悠長なことは言っていられないので、世界中で開発競争が始まっている。製薬メーカーにとって、新型ウイルスのワクチンは、インフルエンザのワクチンや「タミフル」や「イナビル」などの阻害薬と同じくドル箱になるのは間違いないので、研究開発は急ピッチだ。
 報道によると、メルボルン大学とピーター・ドハティ感染・免疫研究所は、患者のサンプルから新型コロナウイルスの培養に中国国外で初めて成功したという。
 また、アメリカでも、カリフォルニア州サンディエゴにあるイノヴィオ社の研究所で、ワクチン開発が始まったという。さらに、マサチューセッツ州のバイオテクノロジー企業「Moderna Inc」も、国立アレルギー感染症研究所(NIAID)と提携して、開発を加速すると表明したという。
 もちろん中国のほうも進んでいる。こちらは、国を挙げて行なっているので、専門家の予想より、早くワクチンが開発・生成される可能性が高いだろう。

世界経済への影響はどれくらいか?

 今回の新型肺炎騒動で株価は世界中で下落した。とくにNYダウは、1月最終週の週末に約600ドルも下げた。東京も上海も香港も下げた。
 これは、どのメディアも言うように、「新型肺炎の感染拡大で世界景気の先行き不透明感が強まった」(日本経済新聞2月1日)からだが、今後どうなるかは、新型肺炎騒ぎがどこで収束するかにかかっている。
 もし、SARSのときより収束が遅れれば、世界は大不況に突入する可能性もある。 
 現在、中国は「世界の工場」であり、製造業のサプライチェーンの中核に位置している。また、石油や鉄鉱石などの資源の消費量も、国内の個人消費量も大きい。

 その中国経済が新型肺炎で一時的にダウンすれば、影響は世界に及ぶ。SARSでは、世界全体で約330億ドルの経済的損失が発生したとされるが、あの時と現在では、中国経済の規模は格段に違うので、SARS以上のダメージとなるのは確実だ。

日本経済のダメージは想像以上に大きい

 経済へのダメージがとりわけ大きいのは、どの国より日本である。
 最近は「インバウンド」といって、中国人観光客の消費が国内経済を支えるようになったから、それが吹き飛べば大変なことになる。すでに、海外団体旅行を全面禁止にした中国政府の決定を受け、日本各地で宿泊キャンセルが続出している。また、毎年の春節時期には中国人観光客でにぎわっていた新宿や秋葉原などは、ガラガラだ。家電量販店やドラッグストアチェーン、デパートなどは軒並み売り上げがダウンしている。
 2003年のSARS流行時も中国人観光客は減った。しかし、当時の訪日中国人観光客は約44万人。それが、昨年は959万人と20倍以上に増えている。つまり、単純に見て、SARSのときと比べて20倍以上の経済的損出が考えられる。野村総研の試算によると、その額は7760億円になるという。
 中国に進出している日本企業も大きな損出を被っている。
 東京商工リサーチによると、武漢市に進出している日本企業・拠点は39社・45カ所、中国全土では同1891社・438カ所に上る。このうち約半数は製造業だから、物流や生産活動がストップした状況が続けば、業績に大きく影響する。
 新型肺炎騒ぎがなくとも、たたでさえ日本経済は減速・停滞を続けている。アベノミクスの失敗と消費税の増税を受けて、経済指標は軒並みガタガタになっている。そのため、いまや五輪前景気も吹き飛んで、東京五輪の開催を危ぶむ声すら聞こえてくるようになった。
 感染拡大が続きWHOからの「終息宣言」が遅れれば、本当にどうなるか分からない。(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

この続きは2月12日発行の本紙(アプリとウェブサイト)に掲載します。 
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。