連載321 山田順の「週刊:未来地図」新型コロナウイルス感染拡大 (上)  終息はいつか? 大恐慌になってしまうのか?

 結局、今週もまた新型コロナウイルスに関して書いていかなければならない。次は違うテーマでと思っていたが、そうもいかない。感染拡大は世界中に広がり、止まりそうにない。
 はたして終息するのか? それはいつか? 世界はこのまま大恐慌になってしまうのか? が、いま最大の関心事だ。ただ、今日までの情報を分析してみると、どうしても悲観的になってしまう。

*編集部からのお知らせ
 先週に続き「東京五輪絶望、感染拡大、不況突入…新型コロナウイルスから命とお金を守るには?」の第二部を掲載の予定でしたが、新型コロナウイルス感染の状況が流動的なため、現時点で最新の内容を掲載します。第二部はウェブサイトをご参照ください。

なぜ南京は感染者が
ゼロになったのか?

 先週から状況が違ってきたことが1つある。それは、中国が発表する感染者数が日ごとに減ってきたこと。それとともに、中国政府が経済活動の再開に向けて動き出したことである。
 習近平主席は3月4日、「予防と抑制の状況は持続的に良くなっている」と表明し、保健当局も「4月末までにはピークアウトし、終息のメドがつく」との見解を表明した。
 中国の発表が信じられるかどうかは別として、中国の状況が最悪を脱したことだけは確かだろう。中国は、これまで武漢の完全封鎖など徹底的な「封じ込め策」をとってきた。この効果が出てきたといえるのではないだろうか。
実際、市当局が徹底した封じ込めを行なってきた南京では、2月半ばから新感染者が出なくなった。南京では飲食店はほとんど閉じられ、マクドナルドは営業しているが、店内には入れず、シャッターの外からスマホで注文する。すると、店員が窓口から袋に入った商品を手渡ししてくれ、その袋には、調理人と渡した店員の名前と体温が表示されるという徹底ぶりだ。デパートもショッピングモールも、ほとんど閉じられ、入るには必ず体温検査を受けなければならない。
地下鉄に乗るにも体温検査が必要で、37・3度を超すと乗れない。また、乗っても個人情報の登録が義務付けられ、スマホでこれを行う。つまり、誰がいつどこで乗ったかが当局に把握され、感染者が出たらすぐに追跡できるようになっている。

感染に歯止めが
かかった国、増え続ける国

 感染者数が減ってきた中国に反比例するように、中国以外の世界では感染者数が増え続けている。韓国、日本、イラン、イタリア、フランス、アメリカ…。感染はいまや世界中に広がった。
 そこで、世界感染マップを見てみると、世界は2つのグループに分かれることに気がつく。1つは、感染拡大に歯止めがかかっている国々、もう一つが拡大を続けている国々だ。
 中国は、発表通りに感染拡大に歯止めがかかったとすれば、1つ目のグループに入る。では、この1つ目のグループには、他にどんな国があるのだろうか? 台湾、シンガポール、香港、マカオなどが挙げられる。
 これらの国の共通点は、いずれも南京と同じような徹底した封じ込め策をとったことだ。そして検査を徹底させて感染者を追跡した。
 それに比べて、韓国、日本、イラン、イタリアはどうだろうか? 封じ込め策はとらず、検査も当初は少なかった。甘く見ていたのである。
 イタリアは感染者が5000人を超えた3月8日、ついにミラノがあるロンバルディア州など北部地域を封鎖することを発表した。韓国はすでに大邱を事実上封鎖している。
 ところが、日本は検査数もまだ増やさず、一部地域の封鎖も行わず、感染者が増えるにまかせている。
 アメリカはカリフォルニアやニューヨークで「非常事態宣言」が出されたが、検査はまだ始まったばかりだ。なにしろ検査キットが足りない。

最大の懸念は
アメリカがどうなるか?

 このように見てくると、たとえ一部の国で感染者数は抑えられても、大多数の国々では、さらに感染者数が増えることが予想される。なぜなら、そうした国々は、中国のような強権独裁国家、台湾のような島国、シンガポールのような都市国家ではないからだ。
 基本的な人権が確立した民主国家では、なかなか強硬策がとれない。
そう考えると、今後もっとも懸念されるのがアメリカだ。トランプ大統領は支持者集会で感染者が出たというのに、「集会はまだ続ける」というノーテンキぶりだ。これは口先だけでほぼなにもしない日本の官僚と安倍政権よりひどいかもしれない。
 ついこの前まで、クルーズ船ダイヤモンドプリンセスを散々批判してきた米メディアも、同じ運営会社のグランドプリンセスで同じことが起こったので、なにも言わなくなった。
 つまり、今後の最大の懸念は、アメリカが感染拡大を止められるかどうかだ。CDCは感染症対策では世界一の機関とされるが、はたして本当にそうなのか。できるのか?

医療崩壊の防止を
優先した人命軽視策

 中国の例を見れば、感染に歯止めがかるまでに4カ月を要したことになる。武漢で最初の感染者が出たのは昨年の12月だ。
となると、現在の日本やアメリカが武漢の1カ月後の状況にあるとすれば、感染者がピークアウトに向かうのは3カ月後ということになる。それは、今年の6月末、あるは7月だ。
 ただし、それも武漢のように完全封鎖を行うか、あるいは台湾やシンガポールのような徹底した封じ込めを行なっての話である。それができないとなれば、終息は夏を超すのは間違いないだろう。
 現在、多くの国が封じ込めはせず、重傷者だけを助けるという対策をとっている。そうしないと医療崩壊してしまうからだという。しかし、本来、医療は早期検査、早期発見、早期治療が大原則。発見が遅れて重症化したら、治療も難しくなる。
 つまり、検査を症状が出た人間だけに絞るということは、医療崩壊の防止を優先した人命軽視策にほかならない。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、私のメールアドレスまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com