(4)東アジアだけなぜ致死率が低いのか?
常々、私が不思議に思ってきたのが、日本、中国、韓国、台湾といった東アジアの国で、致死率が低いことだ。各国の数値に整合性がないとはいえ、中国も武漢以外では致死率は1%前後、韓国は2%に達していない。台湾も、現在(4月15日)まで死亡者数は一桁であり、致死率は1%ほど。日本も死亡者はまだ100人をオーバーしただけで、致死率は2%ほどだ。
これは、イタリア、スペイン、フランスなど10%前後に達している欧州諸国と比べると低すぎる。ただ、欧州諸国のなかで致死率がとくに低いのがドイツ。1.6%前後で推移しているので、東アジア諸国と変わらない。
| これは、いったいどういうことなのだろうか?
ドイツと東アジア諸国には、共通点がほとんどない。ドイツの致死率の低さの原因として挙げられているのが、医療システムの充実、高齢者施設の充実、在宅勤務をしやすい仕組み、自宅隔離がしやすい住宅事情などだが、東アジア諸国にこれがあるかというと、私にはそうは思えない。
そこで、とくに日本の場合、感染者数の少なさと致死率の低さの原因として言われ出したのが「BCG接種」だ。日本人はみな子供のときにBCG摂取を受ける。このBCG摂取率の高さが重症化を抑えているというのだ。
しかし、これには科学的な根拠がない。信じないほうがいい。
(5)仮説:ネット社会の進展度が影響している
新型コロナウイルス感染拡大防止に成功した例として、台湾、韓国、香港、シンガポール、イスラエル、ドイツ、アイスランドなどが挙げられている。中国が政府発表通り収束に向かっているとしたら、このなかに中国も加えていいだろう。
では、こうした国々に共通している点はなにか?
私は、ネット社会の進展度合いが他国に比べて高いことではないかと思う。とくに台湾を見ていると、強くそう思う。
台湾は中華圏なのに、新型コロナウイルス発生直後から、徹底した防止策を取った。この対策が早かった点も大きいが、ネットを使って感染者、接触者を追跡して情報を公開し、また、マスク販売もネットで可視化したことのほうが大きいと思う。これを担当したのが、日本でも「38歳の天才」として紹介された唐鳳(オードリー・タン)デジタル担当政務大臣だ。
さらに、蔡英文政権には、閣僚に公衆衛生の専門家がいる。陳健仁副総統である。彼は台湾大学の公共衛生研究所で修士号を取得し、ジョンズホプキンズ大学に留学して公衆衛生分野で博士号を取得した感染症の世界的な専門家だ。デジタルのプロと学者がいるのだから、台湾の拡大防止策が的確だったのは当然かもしれない。
中国にしても、韓国にしても最近のネットの進展とスマホの普及ぶりは、日本を凌駕している。社会生活がほぼデジタル化、オンライン化している。日本は、この点で大きく遅れており、対策も後手、後手。台湾のような人材もいない。それを考えると、このまま感染拡大防止に成功するとはとても思えない。
(6)なぜ、政府、安倍内閣は後手、後手なのか?
効力がない見せかけだけの7都府県への「緊急事態宣言」。しかも、泡を食って宣言の全国拡大。「人との接触を最低7割、極力8割に削減する」という目標を掲げたが、これでは、感染拡大は奇跡が起こらない限り止まらない。
それなのに、安倍首相は14日の衆院本会議で、まだ、寝ぼけたことを言っていた。
まず、評判最悪の「アベノマスク」を「急激に拡大しているマスク需要に対応する上で非常に有効だ。理にかなった方策だ」と述べ、さらに、緊急事態宣言などの対応が遅いとの野党の指摘に対しては、「諸外国と比しても、わが国の対応が遅かったとの指摘は当たらない」と強弁したのだ。
まさに、危機感ゼロ、責任感ゼロである。
なぜ、日本はここまで対策が後手に回ったのだろうか?
これに対しては、いろいろな分析があるが、安倍首相のこの言葉がすべてを象徴しているだろう。
危機感ゼロ、責任感ゼロの政権(首相と大臣)と内閣府、官僚トップの人間たちが、無駄な会議ばかりやってこうなったのである。旧日本軍と同じで、現場を顧みず、現実と希望的観測をいっしょくたにして、戦力の逐次投入しかしてなかった。結局、現場がいくら優秀で必死に働いても、トップが無能だと、国は滅亡する。
経済対策にしても、見せかけだけ。国民生活が行き詰まっているのに、「事業補償はしない」とし、「低所得世帯に限定しての一世帯30万円支給」でなんとかしろというのだから、「国民見殺し」を決め込んだとしか言いようがない。
じつは、3月後半までは、「国民1人10万円支給」「消費税減税」などの案が、野党はもとより自民党内でも強かった。ところが、4月になって、急に立ち消えたのである。官邸からの圧力が加わったからだ。
しかし、15日になって、世論の反発があまりに高いことに驚いた官邸は、「1人10万円」を復活させた。公明党からの提案を総理が飲むというかたちで、補正予算に組み込まれることにした。といはいえ、あまりにも遅い対応で、国民の怒りは治っていない。
安倍晋三首相(昭恵夫人も含む)、麻生太郎副総理兼財務大臣、西村康稔経済再生担当大臣、加藤勝信厚労大臣、鈴木俊彦厚労省事務次官、岡本薫明財務省事務次官、今井尚哉首相秘書官、北村滋国家安全保障局長など、名前を挙げていけばキリがないが、これらの人々に、危機感ばかりか、国民を思いやる気持ちがまったくないのは、もはや明らかだろう。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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