連載347 山田順の「週刊:未来地図」検証「コロナウイルスは人工的につくられた」 (第一部・中)

なぜ中国は武漢を全面封鎖したのか?
 中国が人口1100万人の大都市、武漢を全面封鎖したのは、春節が始まる直前の1月23日だった。住民の外出は禁止され、公共交通は止まり、会社も商業施設もすべて閉鎖された。
 これは、感染拡大が武漢から中国全土に広がるのを抑えるためとされたが、首都・北京をコロナ禍から守るためでもあった。さらに、中国政府は1月25日から、感染者を収容する臨時病院「雷神山医院」をわずか10日間の突貫工事で建設した。
 こうした強硬措置を見て、世界は、それまで報道規制や隠蔽を繰り返してきた中国政府がウイルス対策に本気になったことを知った。また、新型コロナウイルスは言われているほど簡単な敵ではないと思うようになった。
 当時、中国政府は発生源を武漢の海鮮市場で売られていたコウモリとしていたが、中国国内でもネットで疑問の声が上がった。なぜなら、コウモリはこの時期冬眠に入っていて、市場で売られていなかったからだ。そこで浮上したのが、武漢ウイルス研究所の存在だった。

ネットで告発された“犯人”研究員
 中国政府は武漢を封鎖するとともに、武漢市の幹部も更迭した。そうして、ウイルスの発生源として疑われ出した武漢ウイルス研究所に、人民解放軍の幹部であり、トップクラスの科学者である、陳薇少将を送り込んだ。彼女は、エボラ出血熱のエキスパートであり、SARSとの戦いではもっとも国に貢献した学者で、生物化学兵器部門の最高責任者だった。
 そんななか、武漢ウイルス研究所の石正麗という研究員(副所長)が、ネット上で“犯人”に仕立て上げられた。それは、彼が2019年に「コウモリからコロナウイルスを抽出し新種のコロナウイルスを研究する」という講演会を行ったことがわかったからだ。このことで、ネット上では新型コロナウイルスの開発者として名指しされたのである。
 また、現役研究員の1人が、SNSでウイルス開発の目撃情報を暴露したので、人工ウイルス説の信憑性が高まった。ただし、これらの情報の真偽はわからない。中国政府は例によって、こうしたネットの情報を削除してしまった。
 ただし、中国政府のこうした対応と、武漢のあまりにも厳重な封鎖措置は、ウイルス人工説の疑惑をかえって深めることになった。

北京とワシントンの非難合戦が始まる
 ウイルス人工説は、一時期パッと広まったが、その後、2カ月にわたってたち消えになった。アメリカで、この説を最初に取り上げた金融ブログサイト「ZeroHedge」(ゼロヘッジ)は、ツイッター側からアカウントを凍結させられた。
 ところが、3月22日、先のトランプ発言を引き出した中国外務省の趙立堅報道官が、再び、アメリカを非難するツイートをすると状況が変わった。
 趙立堅報道官は、「アメリカCDCは、新型コロナウイルスの患者をインフルエンザの患者と誤って診断してきたことを認めている」と指摘し、インフルエンザの流行時期を念頭に「新型コロナウイルスの感染が去年9月ごろに始まったとするならば、どれくらいの人が感染したのか。アメリカは最初の患者がいつ現れたのか明らかにすべきだ」と言ったのである。つまり、新型コロナウイルスは、じつはアメリカで流行っていたインフルエンザが中国に輸入されたのではないのかと示唆したのである。
 これに対して、アメリカは反撃した。
 ブルームバーグ・ニュースは4月1日に、米情報当局は中国がこれまで新型コロナウイルスの感染症例やウイルス感染症による死者数をいずれも過少報告し、感染の広がりの実態を隠蔽していたとする機密報告をホワイトハウスに提出したと報道した。これは、明らかにワシントンの意向を受けた記事と言えた。
 そうしたなか、しばらく姿を見せなかった趙報道官が記者会見に現れ、問題のツイートについて質問されてこう答えた。
 「(あのツイートは)少し前に中国に汚名を着せた一部のアメリカの政治家への対応だ。汚名に対する多くの中国国民の怒りも反映している」
 こうして、ウイルスをめぐる米中戦争はヒートアップし、ついにマスメディアがウイルス人工説を取り上げることになった。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。

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