連載356 山田順の「週刊:未来地図」 世界エアライン危機: 自由に旅行できる日は再び訪れるのか?(下)

バフェットがエアライン株すべて投げ売り

 5月2日、衝撃のニュースが航空業界を直撃した。ウォーレン・バフェットが、投資会社バークシャー・ハサウェイの年次株式総会で、アメリカの大手エアラインの株式をすべて売却したと明らかにしたというのだ。その額40億ドル(4400億円)。筆頭株主だったデルタのほか、アメリカン、ユナイテッド、サウスウエストなど、すべての株式が売られた。
 バフェットの株式への投資スタイルは「長期保有」である。それなのに、なぜ売ったのか?
 報道によると、バフェットは次のようにその理由を語っている。
「航空ビジネスは大きく変わったと思う」
「将来が見えにくくなった。ロックダウンが長期間続くことでアメリカ人の習慣がどう変わったのか、今後どう変わるのか、私にはわからない」
「大幅な損失を出してでも、エアライン株を手放すことを決めた」
「将来的に資金を食いつぶすと予想される企業に資金は出せない。航空業界は需要が干上がっている状態だ。基本的に、空の旅は停止状態にある」
 このバフェットの見方は正しいのだろうか? ポイントは、コロナ禍によって人々の生活習慣が変わり、空の旅が元に戻るかわからないということだろう。

コロナ危機は真っ先にLCCを直撃した

 ここで、世界のエアラインに目を向けると、二つの大きなトレンドが、いまこの業界を襲っていることに気がつく。一つ目は、資金力のないLCCが真っ先に被害を受け、退場していくということ。もう一つが、国際線に頼るナショナルキャリアの危機が深いことだ。
 LCCに関しては、たとえば、豪ヴァージン・オーストラリア、英フライビーは、すでに倒産してしまった。ヴァージン・オーストラリアは、政府に支援を求めたが、株主の9割が外資のため、断られた。
 欧州最大のLCC、アイルランドのライアンエアーは、5月1日、最大3000人のレイオフを発表した。コロナ禍のせいで、これまで欧州中に張り巡らされた路線のほとんどを閉鎖し、従業員の減給などを行なってきたが、レイオフに踏みこまざるをえなくなった。
 マイケル・オリアリーCEOは「この業界が2019年のレベルに戻るまで2年はかかる。それまで持ちこたえる」と述べたが、はたして本当に持つだろうか。
 アジアでナンバー1のLCC、マレーシアのエアアジアは、東南アジア圏全域、インド、日本などに路線を伸ばしてきたが、コロナ禍でほぼ全路線を閉じた。そのため、売り上げはマレーシア国内だけになり、倒産の危機にある。
 もともとLCCは価格競争が激しく、低価格を売りにしているので、資金繰りは苦しい。エアアジアは、今年、1年間乗り放題という「アンリミテッド・パス」を破格の499リンギット(約1万2700円)で売り出していた。(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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