中国が「国家安全法」の香港導入を決めたことで、米英が対抗措置を取り、オフショアとしての香港は価値を失いつつある。いずれ、香港ドルは紙くずになるだろう。そうなれば、人民元も価値を失う可能性がある。
おりから、コロナ禍で新興国通貨は暴落している。コロナ大不況の直撃をもっとも受けるのが日本なので、今後は円も暴落するはずだ。
結局、米ドルしか通貨として持つ意味はなくなる。一時的な円高に惑わされず、ポストコロナを見据えて、米ドルへのシフトを進めるべきだろう。
香港人の「香港脱出」が加速化する
コロナ禍が起こってから、つくづく習近平は愚かだと思うようになった。とくに、今回の「国家安全法」の香港導入は、アメリカに真正面から喧嘩を売るばかりではなく、自分自身の首も締める。
弾圧により香港を中国本土と同じにはできる。北京の威厳は保てる。しかし、それにより、国際金融センターとしての香港を失えば、中国にメリットはほとんどない。
昨年の「逃亡犯条例改正案」のデモのときも起こったが、今後、香港人の香港脱出は加速するだろう。すでに、台湾、カナダ、シンガポールなどに脱出した香港人も多い。
英国内務省は、英国パスポートを保有する約30万人の香港人について、今後、申請することで英国市民権を獲得できる可能性があることを認めている。英連邦諸国も香港人を受け入れる用意があるとしている。
香港には優秀な人材が多い。彼らは、中国が本気で「国家安全法」を適用してきたら、真っ先に逃げ出すだろう。本来なら、日本も脱出香港人を受け入れるべきだが、世界が読めない現政府にそうした考えはない。ないばかりか、いまもなお「習近平・国賓来日」を論議しているのだから、呆れるほかない。
市内の両替所、銀行から米ドルが消えた
今後、香港では、デモが再度過激化する可能性がある。ただ、北京が力づくできた場合、鎮圧されるのは間違いない。それを考えると、脱出できない香港人の唯一の抵抗は、自分の資産を守り抜くことだけだ。そのためには、香港ドルを捨て米ドルに替えるしかない。
5月30日の「サウスチャイナ・モーニング・ポスト」紙(SCMP)の報道によると、香港市内に数百カ所ある両替所から米ドルが消えてしまったという。
ある両替所の店主は「米ドルに対する需要は約10倍に増加し、顧客は一度に数十万から数百万香港ドルの大金を米ドルに変えようとしている」と述べている。 両替所でこうなのだから、銀行の窓口でも、同じことが起こっている。香港の知人に聞くと、「1万ドル以上は降ろせなくなるという噂が飛び交い、みな米ドルのキャッシュを欲しがって並んでいる」と言う。
通貨下落は、国家が崩壊する前に必ず起こる。香港では、米ドルばかりではなく、いまや、ユーロや英ポンド、豪ドルもなくなろうとしている。
なぜ、香港人が自らの通貨、香港ドルを手放すのか?
香港ドルは、1983年以来、米ドルとペッグ(連動)していて、現在のところ1米ドル7.75~7.85香港ドルで取引されている。ペッグされているのだから、問題ないではないかと言う人もいるが、このペッグが外される可能性が高いのだ。
米ドルの交換停止という最後の「切り札」
トランプは、もうなにがなんでも中国を叩くと決めたから、29日に、「香港人権民主法」の発動を決めた。この法律は、昨年6月に超党派で決まったもので、香港が中国政府から十分に独立した立場にあり、優遇措置適用に値するかを国務長官が毎年評価するよう義務付けられている。
そこでもし、香港が「一国二制度」に違反していると判断されれば、香港で人権侵害を行った個人に対する制裁や渡航制限を課すことができる。トランプは、そうすると表明したのだ。
しかし、さらに踏み込んだ条項も、この法律には組み込まれている。それは、「1992年香港政策法」の修正条項で、このなかにある「香港ドルと米ドルの自由な交換を認める」をアメリカは停止することが可能なのである。
つまり、アメリカは香港ドルと米ドルの交換を停止させることができる。
香港の金融制度は独特で、香港金融管理局が香港ドルと米ドルをペッグさせ、対米ドル・レートを決定する。そのうえで、英国系の香港上海銀行(HSBC)とスタンダードチャータード銀行、そして中国国有商業銀行の3つの銀行が香港ドルを発行する。これを可能にしているのが、「香港ドルと米ドルの自由な交換」である。
つまり、これができなくなれば、香港ドルの価値は担保できなくなる。したがって、現在行われている海外からの中国への直接投資、中国から海外への直接投資はストップし、そのうちの約6割が失われると見られている。
もちろん、中国に投資する側である日米欧の企業、金融機関にとってもダメージは大きい。香港にはこうした企業、金融機関の拠点が10万社以上ある。
しかし、それ以上に中国にとってのダメージは大きい。香港という“オフショア”の役割を上海などが代替できても、香港には匹敵しない。
習近平は、じつは賢くないと言わなければならない。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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