連載381 山田順の「週刊:未来地図」飛べない「三菱ジェット」は日本凋落の象徴か(完)

このまま終わらせてはいけない理由がある

 窮地に立った三菱のスペースジェット。コロナ禍が続いていけば、「M100」は飛ばないまま終わる可能性がある。
 それはあんまりだ。ここはなんとしても開発を進める。このまま終わらせてはいけない。そのためには、政府も援助すべきだという意見がある。
 この意見は、感情論だけではなく、そうかもしれないと思わせる理由がある。それは、もし三菱が「M100」を完成させれば、ライバルが事実上いなくなったので、アメリカ市場に受け入れられるだろうというものだ。
 MRJがスタートしたとき、次世代リージョナルジェットのライバルは事実上2社いた。カナダのボンバルディアとブラジルのエンブラエルである。
 しかし、その後の情勢の変化で、2社のうちのボンバルディアはリージョナルジェットの製造から撤退することになり、三菱はサービスやマーケティングなどの機能を買収した。しかも、残ったエンブラエルだが、三菱同様にスコープクローズ緩和についての予想を外し、現在は手持ちの旧型の「E-JET」を販売するほかなくなっている。
 となると、スコープクローズ対応の「M100」はアメリカ市場で競争力を持つことになる。なんといっても「M100」は燃費において「E-JET」をはるかに上回る。
 また、「M100」は「M90」の貨物室を縮小したうえ、ほかにも構造的な改良を重ねているので、その利点を活かせる。たとえば、制限座席数の76席を「M90」と同じ座席幅とした場合84席まで積むことができる。そうすれば、アメリカ市場では76席で売り、他市場では座席数を増やして販売できるというのだ。
 いずれにせよ、どう決断するかは、三菱と市場の動向次第だ。ただ、ここで撤退すれば、莫大な損失だけが残ることになる。また、これまでに公的資金が約500億円投入されているので、それに対する批判も起こるだろう。

「自前主義」にこだわり続ける日本

 はたして、スペースジェットが今後どうなるかは、いまの時点では予測がつかない。
 ただ、言えるのは、ここで終われば、日本のものづくりの凋落を象徴する出来事となるということだ。日本はこれまで、重工業に関して、その優位性をことごとく失ってきた。
 いまや造船は韓国の後塵を排し、鉄道は新幹線の技術を中国に奪われた。自動車だけはトヨタを筆頭に頑張っているが、次世代カーではテスラに敗ける可能性がある。そんななかで、航空機が復活すれば、日本の重工業にとって大きなターニングポイントになると思ってきた。
 三菱はロケットや鉄道など巨大なシステムの設計と製造においては、世界のリーディングカンパニーである。それが、どうして、飛行機だけ、ここまで失敗を重ねてしまったのだろうか。
 前記したように、「設計思想」の欠如と「技術信仰」。そして「驕り」の結果なのだろうか。
 私としては、ここにもう1つ加えたいことがある。それは、「自前主義」だ。日本人はなぜか、すべてを自前でまかなおうとする。自前主義には、確かにさまざまなメリットがある。人材や研究開発を自前で賄うため、成功すれば技術や利益などすべてを独占できる。しかし、致命的な欠陥もある。それは、開発に莫大な時間とコストがかかることだ。
 当初、MRJはこれをやった。そして、この欠陥に気がつき、外国人を大量に入れて、型式証明の取得を目指した。つまり、ここから、自前主義を捨てわけだが、スタート時の間違いが最後まで響いた。
 「自前主義」は「クローズドイノベーション」である。これに対して、いまは、「オープンイノベーション」の時代だ。 
 今回のコロナ禍でも、日本の厚労省と専門家集団は、PCR検査キットの開発・使用などで、自前主義にこだわった。ロシュなどの海外企業がいち早く開発していた自動検査機を使えば、早い段階で検査体制は整った。それなのに、導入しなかった。
 いずれにしても、スペースジェットは現在、見直しの最中である。どんな結論が出るかはわからない。しかし、もし、開発を中止した場合、日本の重工業の復活の希望は完全に消えるだろう。21世紀の空を、日本製の飛行機が飛ぶことは、永遠になくなるだろう。
(了)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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