連載402 山田順の「週刊:未来地図」米中覇権戦争と日本(1) 日本を叩き中国を育てたのはアメリカだ!(上)

 現在、世界では二つの歴史を変える出来事が進行している。一つは、コロナ禍。もう一つは、米中覇権戦争だ。どちらも、今後の日本の行方を大きく左右する。
 そこで、今日から3回、米中覇権戦争に関して、歴史的に考察してみよう。まず言えるのは、先日の「ポンペオ演説」が明らかな中国への宣戦布告だということ。そして、いまの中国をつくったのは、他ならぬアメリカということだ。
 アメリカがアジアにかかわってほぼ2世紀、なぜか、アメリカ人は中国人を助け、日本人を敵視してきたのだ。

「熱戦」以外の分野で完全な戦争状態に

 いまや、米中が世界の覇権をかけて争っているのは、誰の目にも明らかだろう。当初、私は、どう見ても劣勢な中国はどこかでいったん矛を収めると思っていた。しかし、私の見方は甘かった。中国はいま、とことん突っ張っている。
 先日のこのメルマガでも述べたように、中国の“終身皇帝”習近平(シーチーピン)は、まったく愚かな選択をしたとしか言いようがない。中国の野望にやっと気づいたアメリカの「中国排除」を、真正面から受けて立とうとしているからだ。
 7月末に、アメリカがヒューストンの中国総領事館を「諜報活動の拠点」として閉鎖させると、中国は報復として成都のアメリカ総領事館を閉鎖した。さらに、8月9日にアメリカがアレックス・アザー厚生長官を台湾に派遣して蔡英文総統と会談させると、10日に「国家安全維持法」を成立させた香港で、民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)氏や地元紙「蘋果日報」(リンゴ日報)のオーナー実業家の黎智英(ジミー・ライ)氏を逮捕した(その後、保釈)。
 すでに、アメリカでは、中国からの移民の制限、中国人留学生のビザ停止、孔子学院の閉鎖など、19世紀の「中国人排斥運動」の復活を思わせる動きが始まっている。ワシントン(トランプ政権)は、次々に中国排除の政策を打ち出している。
 8月7日、「香港の自治侵害」などを理由に、林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官を含む中国高官11人への制裁と米国内資産の凍結が発表された。また、8月13日には、「国防権限法」に基づいて、ファーウェイ、ZTE、ハイテラ、ハイクビジョン、ダーファ・テクノロジー5社の製品を使う企業に対して、アメリカ政府との取引を禁止する規則が施行された。
 もうここまで来ると、米中はほぼ戦争状態に入ったと見ていい。「熱戦」(軍同士の実際の戦闘)は起こってはいないが、他分野では激しい戦争が起こっている。とくにネットワークをめぐる覇権争いはすさまじい。トランプは、経済と貿易、つまりおカネにしか興味がないようだが、今回の米中覇権戦争の主戦場はネットワークだと私は考えている。
 中国は、領土拡大はもちろんのこと、ネットによって情報を吸い上げ、それによって個人を支配しようと考えているからだ。

アメリカによる平和か中国による平和か?

 毎年8月初旬から半ばにかけて、中国では世界が注視する会議が開かれる。共産党の長老や幹部が集まる「北戴河会議」である。北戴河は河北省秦皇島市にある、渤海湾に臨むビーチリゾート。北京の人々にとっての人気の避暑地だ。
 この北戴河に、「中南海」(天安門広場西側の地域:中国の永田町)がそのまま引っ越してきて、ここで、今後の中国の方針が暗黙裡に話し合われるのだ。じつは、「中国の夢」(=「偉大なる中華民族の復興」)も、ここで決まったと言われている。
 では、今年はなにが話し合われたのだろうか?
 ここまで表立った報道はないが、漏れてきた話を総合すると、アメリカとの覇権戦争を継続させること。持久戦に持ち込むことが話し合われたという。
「戦狼外交」を推進している北京は、「休戦」「妥協」はまったく考えていないという。
 となると、今後、米中覇権戦争がさらに激化するのは必至だ。いまは、歴史的に見ると、「パックス・アメリカーナ」(アメリカ覇権による世界平和)の時代である。それ以前は「パクス・ブリタニカ」(英国覇権による世界平和)の時代で、近代史においては、世界の秩序は必ずある一国(大国)により保たれてきた。
 となると、中国はアメリカの覇権に挑戦しているわけだから、「パックス・シニカ」(中国覇権による世界平和)をつくり出そうとしているということになる。
 平和というのは、単に戦争がないことで、その中身に関しては問われない。アメリカ的平和と中国的平和。そのどちらかを選ぶのか? それがいま、世界中で問われていることだ。
(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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