コロナ禍と経済衰退のなかで、次の首相に菅義偉・官房長官が就くというのだから、日本の先行きが心配だ。安倍政権の継承? 歴史的な危機の現在、そんな選択はありえない。
いま、日本人の多くは、自国がどうなっているのかわかっていないから、こんな選択になるのだろう。もういい加減、「日本はすごい」というフィクションから目覚めないと、未来は開けない。
こんな予測はしたくはないのだが、このまま行けば、「ポストコロナ」で、あらゆる面で韓国に抜かれるだろう。すでに、国民1人あたりの GDP、デジタルエコノミーなどで、日本は追い抜かれようとしている。
韓国ネガティブ報道に喜ぶ中高年
最近は韓国のニュースというと、ネガティブなことばかりが伝えられ、そのたびに「やっぱり」と溜飲を下げている中高年は多いと思う。
慰安婦問題、徴用工問題、貿易問題などで「反日政策」を続ける文在寅(ムン・ジェイン)政権に対して、日本人は明らかに敵意を抱いている。そのため、韓国経済が落ち込んでいると聞くと喜び、親北政策が行き詰まっていると聞くと、また喜ぶ。
現在の日韓関係は、史上最悪だとメディアは言っている。それを日本人は歓迎している。「もうこれ以上、あの国に譲歩するなんてまっぴらだ」と思っている。だから、「嫌韓言論」が社会にあふれている。
しかし、この状態でいいのだろうか? 私にはとてもそうは思えない。というのは、このままでは、日本は韓国の現実を見誤り、国際社会で韓国の後塵を排することになりかねないからだ。
実際、韓国はもうじき日本を追い抜く。文化面でも経済面でも、日本を凌駕するようになる。いや、文化面ではもう追い抜いていると言えるし、国民の豊かさでもそうなっている。こう言うと、「そんなことはありえない」とムキになる人間いるが、残念ながら、こういう人間は時代を見る目が曇っている。
「認知的不協和」に陥ってしまった日本人
たしかにコロナ禍で、韓国経済は大きなダメージを受けている。貿易依存度が日本より高い韓国では、輸出の落ち込みが大きく影響する。とくに、最大輸出相手国である中国の景気が回復しない限り、経済復興はありえない。そのためか、ウォンは大幅に下落している。現在、こういうことばかりが報道されているが、それでもなお、韓国経済は日本経済よりひどくないと言える。
しかし、多くの日本人は、この現実を信じない。韓国経済が日本よりいいなんて、そんなバカなことがあるかと思っている。つまり、ありのままの現実を認めたくないのだ。
こうした態度は、安倍政権下で助長され続け、いまも続いている。心理学で言う「認知的不協和」である。
認知的不協和とは、現実が自分の認識と矛盾した場合、現実のほうを排除してしまうという心理だ。現実を受け入れると不快なので、現実と異なっていることばかりを受け入れる。これまで、慣れ親しんできた状態や行動パターンのなかで、いつまでも生きようとする。
なぜ退陣表明で支持率が上がったのか?
安倍首相が退陣を表明した後、世論調査は一変した。朝日新聞が9月2、3日に実施した世論調査では、なんと、安倍政権を「評価する」が71%に達した。つい先日まで、30%台まで落ち込んでいたというのに、こうまで評価は変わるものなのか?
アベノミクスで成果が上がらず、コロナ対策にことごとく失敗。森友問題、加計学園問題、公文書改ざん問題、桜を見る会問題など、山ほど疑惑を抱えてきたというのに、安倍内閣はよくやったと多くの日本人が評価したのだ。もちろん、病気で退陣するのだから、同情票もあるだろう。
しかし、7年8カ月の間、安倍内閣の下で生きてきたのだから、それでよかったと思わない限り浮かばれない。そういう心理が働き、安倍政権のネガティブな面をなかったことにしてしまいたいのである。まさに、認知的不協和の典型ではないだろうか。
安倍内閣の7年8カ月の間、日本はほとんど経済成長をしなかった。サラリーマンの平均給与は上がらず、国民生活は以前より貧しくなった。
2018年だけの経済成長率を見ても、日本はわずか0.8%で、世界 167位の低成長率である。また、1人あたりのGDPは、2012年4万6329ドルで世界第 15位だったが、 2018年は 3万9303ドルと世界第26位にまで転落した。
しかも、地方では人口減と産業の空洞化が進み、日本はどう見ても、先進国のなかでもっとも貧しい国になってしまったのである。そんなことを、いまさら認めることができるだろうか?
では、韓国はどうだろう?
経済成長率では日本を上回り、1人あたりのGDPも伸び続けた。韓国は間違いなく、8年前より豊かになった。 端的な話、家電製品だけを見ても、いまや日本は完敗で、サムスンやLGに負けている。(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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