連載418 山田順の「週刊:未来地図」菅義偉・新首相が日本経済を地獄に導く(下)

菅新首相には経済的な知見がない

 菅新首相は、改革への意思はあるという。飲酒をしないのに、酒席には付き合い、何時間でも日本の将来については語るという。日本は改革するべきだと語るという。

 しかし、残念ながら、彼には資本主義、自由主義経済、市場経済に対する知見がない。こういう政治家の欠点は、経済は国がコントロールできると考えていることだ。国家主導でなんでもできると考えていることだ。

 国家が経済に介入すればするほど、経済は衰退する。だから、賢明な政治家は経済対策としてのバラマキはやらない。ところが、歴代の自民党政権はその体質としてバラマキをやり続けてきた。菅新首相もまた同じ道をたどるだろう。

 アベノミクスは、大胆な金融緩和、次に財政出動、そして構造改革の3つを「3本の矢」とした。しかし、やったのは金融緩和(異次元緩和)のみ。その異次元緩和はいずれ“手仕舞い”するはずだったが、コロナでまったくできなくなってしまった。

 つまり、菅新首相は出口なき金融緩和を継続せざるをえない。もし、少しでも“手仕舞い”しようとすれば、金利は上昇し、日本経済は一気にどん底に落ちる。

 菅氏はこれまでに、地方銀行の再編を口にしたことがある。いくら異次元緩和を続けても、資金需要がないのだから、地方の金融機関の経営は行き詰まる。コロナ禍でそれが加速化され、すでに破綻寸前の地銀の名前が取沙汰されている。となると、菅氏は、仕方なく、そういう地銀を再編させ、なんとか持たせようとするだろう。しかし、これは焼け石に水だ。

なぜ日本経済はデフレに陥ったのか?

 アベノミクスの最大の目標は、日本経済をデフレから脱却させ、2%の健全なインフレ軌道に乗せることだった。しかし、おカネを刷って市場に供給するだけでは、これは達成できなかった。

 そもそもなぜ日本がデフレに陥ったのか? そのことに対する根本的な対処がなにもなされなかったからだ。

 日本のデフレの大きな原因は、中国シフトによる産業の空洞化である。1990年代の初めから、日本企業は、こぞって生産拠点を中国に移した。その理由は、中国には圧倒的に安くて、労働集約産業に向く労働者が大量にいたからである。

 また、1990年代には、製造業の構造も変わった。生産工程を垂直に統合して行う方式は非効率化し、水平分業が一般化した。工業製品はコモディティ化し、そのため誰でもパーツを組み合わせれば生産できるようになった。このことも、中国シフトを加速させた要因だ。

 よって、日本に限らず、世界の先進工業国が中国シフトをすればするほどデフレ化は進んだ。そのなかで、いちばんデフレになったのが「ものづくり大国」の日本だった。日本の少子高齢化も、デフレを加速させた。

 現在、米中覇権戦争が進み、中国をデカップリングする動きが進んでいる。これを経済的に見ると、中国の世界市場からの排除だから、ポストコロナの時代にはデフレは収束し、インフレになると思われる。それでなくとも、金融緩和をやりすぎておカネがあふれているのだから、インフレにならないほうがおかしい。しかし、菅新首相に限らず、日本の政治家は30年間も続いたデフレしか知らないので、政策転換ができないだろう。

 これまで通り、アメリカと中国に二股をかけた経済運営では、日本は必ず行き詰まる。菅氏の対中政策は、いまのところまったくわからない。中国とはっきり対峙し、アメリカ側に立って経済運営ができるだろうか。

日本円はいずれ紙くずになるのか?

 菅新首相で不安なのが、為替である。アベノミクスの継承者なら、「円安がいちばん」と考えていると思うが、円安がいいのはある程度まである。

 インフレを放置し、なにも手を打たないと、円は暴落して紙くずになる恐れがある。長期的にはいまこの方向に円は進んでいる。

 日本政府が発行した国債のほとんどが国内で購入されている限り、円は国内でぐるぐる回っているだけだから、理屈の上ではデフォルトは起こらない。財政は破綻しない。しかし、インフレは確実にやってきて、制御できなくなれば、経済は破綻する。

 菅新政権が短期政権なら、そんな事態が訪れるのはまだ先だろう。ただ、コロナによる経済停滞は史上最悪の規模なので、いつなにが起こるかはわからない。要するに問題は、将来確実にやってくるインフレが、どの程度かということだ。

 これまで通り、バラマキが延々と行われ、その費用を賄うための国債が乱発され、円が際限なく発行される。これが、どれくらい続けられるか。この点だけは、新首相はもとより、誰にもわかない。

(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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