連載1053 認知症の進行を遅らせる
FDA承認の「レカネマブ」は夢の新薬か? (下)
(この記事の初出は2023年7月4日)
現行薬は「期待される」域を出ていない
いまや600万人以上の患者がいるため、認知症医療は医療者にとっては、糖尿病と並んで“ドル箱”である。一般的な病気と違って治らないのだから、1度患者認定されれば、患者は死ぬまでリピーターになる。
そういったリピーター認知症患者が、現在、医者から与えられているのが、認知症治療薬である。
日本では、現在、4種類の認知症の治療薬が承認されている。「ドネペジル」(商品名アリセプト)、「ガランタミン」(同レミニール)、「リバスチグミン」(同イクセロンパッチ、リバスタッチパッチ)、「メマンチン」(同メマリー)の4種類だ。
どれも、現在残っている神経細胞ができるだけ長く働くようにすることを狙ったもので、それにより認知症の症状の進行を一時的にも抑えようとする。
しかし、いずれも進行抑制の効果が期待できるとしているだけで、「期待」の域を出ていない。うがった見方をすれば、本当は効果などほとんどないかもしれない。なぜなら、認知症の進行は個人差があり、進行度の正確な判定などできようがないからだ。
その意味で、「レカネマブ」がMCI患者に効果があるということは、かなり大きな出来事と言っていい。MCI段階なら、認知症の進行を止められる。そのことが可能になったと言えるからだ。
「レカネマブ」が開発されたことで再認識されるのは、ともかく認知症は早期発見が大事だということだろう。早期発見できれば、治療が可能になったからである。
進行具合から見た認知症の4段階
認知症には、進行度から大まかに分けて、4段階がある。次の4段階で症状が進行していく。
(1)前兆(軽度認知障害)—–「MCI」と呼ばれている。まだ認知症とは呼べない「健常と認知症の中間」にあたるグレーゾーン。もの忘れなどが見られる。
(2)初期(軽度)—–直前の出来事を忘れてしまったり、勘違いをくり返したりする。単なる「もの忘れ」ではなくなり、見当識障害も見られる。症状が進むと、時間の感覚や、現在の日付や曜日などもわからなくなる。
(3)中期(中度)——記憶障害が深刻化する。記憶が保てなくなるため、自立した生活が困難に。典型的なのは、食事をしたのに食事をしたこと自体を忘れてしまうこと。見当識障害が進むと、徘徊につながることがある。
(4)末期(重度)——重度になると認識力が著しく低下し、人を認識できなかったり、言葉が理解できなくなったりする。もはや、コミュニケーションは不可能。失禁や異食、不潔行為なども見られ、介護なしでは生活が困難になる。
このような経過をたどるわけだが、(1)のMCIの段階で症状が止まるとしたら、どんなに救われることだろう。そこで、できるだけ早い時期に、自分が将来、認知症になるかどうか知る必要がある。
認知症が遺伝的なものではない。その要素はほぼないとわかってきた以上、早期発見が重要となる。
では、なにを検査すればいいのか?
それは、アルツハイマー型の認知症の原因物質よされる「Aβ」が、どれくらい脳内に蓄積されているかだ。最新研究では、アルツハイマー病の多くの患者は、発症の20年ほど前から「Aβ」が脳内に溜まってくるとされている。
(つづく)
この続きは8月4日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
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山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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