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作家 辻 仁成

「地下鉄の匂いと翻る星条旗」
何度も渡米したが、1999年頃、ぼくは一年間、ニューヨークで暮らしたことがあった。人種とエネルギーの 坩堝で、かなりの刺激を受けた。朝から晩までグッゲンハイム美術館にいた。夜はダウンタウンの日本酒居酒屋で、日本人の写真家やクラシックの指揮者、画家、ダンサーやミュージシャンらと議論した。最初はどうしても現地で生きる日本人を通して異国を知ることになる。その後、ザムザというバンドのライブを複数回ニューヨークでやることになった。独立記念日の日に星条旗が翻る大通りを見上げながらなんてバカでかい国なんだ、と笑い出したこともあった。パリに移り住んだのは年のせいかもしれない。ニューヨークで生き延びるには相当の闘争心がいるからだ。憧れの街だが、次はいつ行けるのだろう。その日が待ち遠しい。とにかく、ニューヨークのあの臭い空気と狭い空が好きだ。
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