連載438 山田順の「週刊:未来地図」現金がなくなる日は来るのか? 加速する「デジタル通貨」(CBDC)の実用化(完)

3つのうち1つを諦めるのが金融政策

 中国政府は、長年、自国の産業を守り、育てることばかりに注力し、そのためには国際ルールすら無視してきた。世界第2位の経済大国になったというのに、「発展途上国」として扱われることを世界に強要し続けている。

 そのため、中国の富裕層は人民元を信用せず、得た富を国外に持ち出すことに血眼になってきた。

 中国は、このこともあって、資本の自由化、変動相場制への移行を頑なに拒んでいる。

 国際金融では、次の3つの政策は同時に実現することができない、できるのは2つだけとされてきた。これは、「マンデルフレミングモデル」に基づくもので、国際金融のトリレンマとされている。

(1)為替相場の安定(固定相場制)

(2)独立した金融政策

(3)資本移動の自由

 つまり、一国が対外的な通貨政策を行うとき、このうちの1つを諦めなければならい。現在、世界の主要国は(1)の為替相場の安定を諦めている。(2)の独立した金融政策を取れば、必ず内外の金利差が生まれ、このとき(3)の資本移動が自由ならば、そこに金利差を狙った資本流出入が起こる。そうなると、どうしても為替相場の変動が起きてしまう。それが中国は嫌なのだ。(ちなみに、(2)の独立した金融政策を諦めたのがユーロ圏内の国々である)

 しかし、中国が本当に「デジタル人民元」によるドルの金融支配を崩したいなら、資本移動の自由化に踏み切るしかない。習近平が、この辺のところをどう考えているのかは、情報がなくてわからない。

 しかし、香港を見る限り、自由化など考えてもいないと思える。

ないとは言えない「デジタル円」の悪夢

 最後になったが、じつは、私はCBDCを含むデジタル通貨には反対、というか大いなる懸念を持っている。その理由は、デジタル化全体に対しても言えることだが、デジタルになると、嘘、偽りがすべて消えてしまうからだ。

 すべてが透明な世界。それがデジタルワールドで、これは人間世界ではない。おカネの取引はどこまでも透明でなければならないが、はたしてそれで人間社会は成り立つだろうか?

 人は嘘もつく。不正も行う。しかし、デジタル世界は、そういう“自由”をすべて奪ってしまい、国家による統制を強める。中国で「デジタル人民元」が実用化されれば、その後はどんな種類の自由も失われるだろう。

 CBDCの未来を考えると、最初は無償配布だろうが、その後、有償配布に変わり、その際に国は預貯金より有利な利息を付けてくるだろう。そうすれば、国民は喜んで現預金をCBDCに移行するようになる。

 借金漬けで財政破綻が懸念される日本政府にとって、「デジタル円」は、まさに救いの神だ。

「デジタル円」が導入されて数年後、多くのの現預金が「デジタル円」に替わったところで、政府は残りの現預金のうち1人当たり一定の額を超える部分の通用力を失わせる措置を取る。

 これは、終戦直後に政府が行った「新円切替」のデジタル版だ。こうして、国民資産は、政府に吸い上げられ、国は助かる。もしこんなことが起これば、年金に頼って暮らしている高齢者は、ほぼ路頭に迷うことになる。

(了)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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