オバマ政権のメンバーがそっくり移行
というわけで、やはり、最大の注目はバイデン次期大統領が、どんな対中政策を取るかだ。現時点で、トランプ政権の政策を引き継ぎ、中国と対決していくと見られているが、はたして本当にそうなるだろうか?
「ニューヨーク・ポスト」が報じた次男のハンター・バイデンのスキャンダルは、もし本当ならバイデンは中国に痛いとろを握られているうえ、ズブズブの関係にあるとも言える。
また、国務長官候補として名前が挙がっている、スーザン・ライスには不安がいっぱいだ。彼女は、オバマ政権で国連大使や国家安全保障問題担当の大統領補佐官を務めたが、そのとき、中国が提唱した「新たな大国関係」を容認する考えを示したことがある。
外交分野のベテランで人望がるとされる元国務副長官のビル・バーンズも国務長官候補に挙げられているが、彼のほうがスーザン・ライスよりも日本にとってはずっといい。
問題は、国防長官だが、有力視されているのが、元国防次官のミシェル・フロノイ。実現すれば初の女性国防長官となる。対テロ戦略で活躍し、最近では中国・人民解放軍の能力向上に対抗して米軍の先端防衛技術を強化するよう提言している。彼女なら、対中強硬路線を取るのは間違いないだろう。
いずれにしても、オバマ政権を支えたメンバーがそっくり移行してくるのが、バイデン政権である。ただ、当時とはアメリカ人の対中感情はまったく違っている。いまやアメリカ人の7割が中国に対して嫌悪感を抱いている。
同じメンバーだからと言って、同じ政策を取るとは考えられない。
バイデンのバックのウォール街の意向は?
問題はバイデンを裏から支えるウォール街が、中国をどう捉えているかだ。どう見ても、いまの中国を育てたのはウォール街である。とくにゴールドマンサックスは、「BRICs」という言葉をつくって中国をおだて、さらに予測レポートで「いずれ米中逆転が起こる」として、投資家に対中投資を煽った。
トランプは、11月12日、中国人民解放軍の近代化を支援していると分析した中国企業31社への証券投資を禁じる大統領令に署名した。これにより、来年1月11日から、ウォール街マネーは対中投資ができなくなる。31社には、監視カメラ大手の「杭州海康威視数字技術」(ハイクビジョン)や、通信大手の「中国移動通信」(チャイナモバイル)、「中国電信」(チャイナテレコム)などが含まれる。
バイデン政権移行チームは、11月7日の段階で、金融規制・監督見直しに関する助言を行うため、オバマ政権下で米商品先物取引委員会(CFTC)委員長を務めたゲーリー・ゲンスラーと、キーバンク幹部のドン・グレーブスを起用することを決めた。ゲンスラーは、ゴールドマンサックス出身だが、ドル覇権に挑戦してきている人民元をどう扱うだろうか。
ここが、最大の注目だ。
じつは菅総理は「反米親中」かもしれない
そして最後にして最大の不安は、菅総理自身のスタンスがはっきりしないことである。安倍前首相は、自主憲法の制定を目指したように、自主独立志向であったが、アメリカにはべったりだった。アメリカを嫌いではなかった。
しかし、菅首相はこれまでの言動を見ると、親米ではない。アメリカ嫌いのところが見受けられる。おそらく、これは日本人特有の欧米コンプレックスの裏返しだろう。
さらに、安倍前首相及び日本の保守とは、中国に対するスタンスが微妙に違う。これは、親中とされる二階俊博幹事長に取り込まれていることもあるだろうが、本人自身のビジョンのなさから来ているとも言える。
それがはっきりしたのが、先の“外交デビュー”でのインドネシア訪問時にジャカルタで行われた記者会見だ。これは、質問が事前提出という完全なヤラセ会見だったが、安倍前政権の看板だった「自由で開かれたインド太平洋」構想に対して、菅はこう述べたのである。
「『自由で開かれたインド太平洋』は特定の国を対象としたものではなく、考え方を共有するいずれの国とも協力することができると考えており、インド太平洋版のNATOをつくるというような考えはまったくありません」
これは、日本は中国包囲網に参加しないと言ったのと同義だから、ただただ驚くほかない。じつは、菅は自民党総裁選のときも、石破茂が提唱したアジア版NATOに反対した。
しかし、「自由で開かれたインド太平洋」というのは、中国包囲網以外の何物でもない。米日豪印を軸に中国包囲網をつくり、中国の拡張主義を封じ込もうというものだ。
しかし、菅はこのことをわかっていないのか、「中国包囲網に加担しない」とまで言ったことがある。安倍政権を継承すると言いつつも、じつは菅は「親中反米」なのかもしれない。しかも、この首相は頑固だ。日本の安全保障の先行きが、いま、本当に危うくなってきた。
(了)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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