連載482 山田順の「週刊:未来地図」コロナ禍ではっきりした後進国日本。 日本をダメにした「官邸官僚」政治の戦犯たち(中2)

安倍前政権から始まった「官邸官僚」政治

 このような、愚かで目先のことばかり考えた政策が実行されてしまうのは、安倍政権になって、官邸支配が強まったことが最大の原因だ。しかも、安倍政権は、内閣人事局をつくり、官僚の人事権を握った。

 その中枢にいたのが、菅義偉だった。政治主導と言えば聞こえがいいが、政治家とその取り巻きがひどいのだから、愚策と税金の無駄遣いの連発になる。

 かつては、省庁のトップと政治家が渡り合い、政策は各省庁内の専門官僚が詰めに詰めた。しかし、安倍前政権から「官邸官僚」が活躍するようになり、首相に入れ知恵をしてできた政策を各省庁に投げるようになった。

 安倍前政権を仕切った「官邸官僚」のトップは、“影の総理”と呼ばれた経済産業省出身の今井尚哉・首相補佐官兼首相秘書官だ。今井氏のほかに、首相秘書官だった佐伯耕三氏、首相補佐官兼内閣広報官だった長谷川栄一氏といった面々が権力を行使した。アベノマスクは佐伯耕三氏が首相に「全国民にマスクを配れば不安はパッと消えます」と、吹き込んだものだ。

 安倍内閣は、今井氏を筆頭に経産省出身者が多かったので、「経産省内閣」とも呼ばれた。そうして、いかにも経産省らしい「原発輸出」「新幹線輸出」「クールジャパン」などという政策を進め、すべて失敗した。

菅内閣では側近官僚と警察官僚が仕切る

 菅内閣も、「官邸官僚」政治を引き継いだ。しかし、メンバーをお気に入りの人間に入れ替えた。経産省官僚はお役御免となった。今井氏、佐伯氏のほか、新原浩朗・経済産業政策局長 (菊池桃子の夫)も、官邸から追放された。

 その代わりに力を握ったのが、菅側近の官僚と警察官僚たちだった。

 現在の菅内閣で「官邸官僚」のトップとされるのが、菅側近だった和泉洋人・首相補佐官で、この人は大坪寛子・厚労省官房審議官との「コネクティングルーム不倫」で有名だが、菅首相の信任がいちばん厚いのである。その経歴は、かなり異色だ。

 東大工学部都市工学科から旧建設省に技官として入省、その後、国土交通省住宅局長などを歴任して退官後、民主党政権で野田内閣の内閣官房参与となっている。そのため、政権交代で第2次安倍政権が発足すると民主党政権に仕えた官僚はほとんどが排除されたのに、なぜか生き残ったのである。

 その理由は、“汚れ役”を一手に引き受けてきたからだという。和泉氏の“汚れ役”ぶりは、たとえばノーベル賞学者の山中伸弥・教授に、iPS細胞研究への国の助成を打ち切ると恫喝したことなどによく現れている。

 一方、警察官僚では、トップが杉田和博・官房副長官で、2番手が北村滋・国家安全保障局長とされている。問題化した学術会議人事問題を主導したのは杉田氏で、菅首相は言うことを聞いただけ。

 「答えられる問題とか答えられない問題がある」という、理解不能な答弁を生んだ元凶だ。

 「Go Toトラベル」に関しては、二階俊博幹事長の意向を組んで実現させたと言われている。実際そのとおりで、「2Fのためにいつまでもやめなかった」とネット民の非難が集中したが、実際の政策は、官邸官僚たちが担当省庁に丸投げした。

 ちなみに、「丸投げ」は、はるか昔から続く日本の官僚の伝統文化だ。

(つづく)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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