連載498 山田順の「週刊:未来地図」コロナ禍で改めて思う「この国のかたち」 すべてに勝る天皇の「お言葉」(完)

連載498 山田順の「週刊:未来地図」コロナ禍で改めて思う「この国のかたち」 すべてに勝る天皇の「お言葉」(完)

天皇の存在が分裂を防ぎ戦後復興を可能に

 歴史に「イフ」はないが、日本がイタリアやドイツのような終戦プロセスをたどっていたら、どうなっていただろうか?天皇の「お言葉」がなく、イタリアのように国家が分裂したり、ドイツのように徹底抗戦して本土決戦をしていたりしたら、どうなっていただろうか?

 まず間違いなく、ソ連軍が北海道、いや東北にまで入り込んで、ドイツのように分割占領となり、東日本と西日本に分裂していただろう。この際、天皇は処刑されたかもしれない。

 また、本土決戦と並行して、中国大陸に残された日本軍120万が徹底抗戦を続けるので、たとえ終戦しても戦後復興などは起こらず、国土は連合国に占領され、「国敗れて山河あり」のままだったろう。

 日本に降伏勧告をした「ポツダム宣言」を発するとき、トルーマンは原案にあった日本に対する立憲君主制の容認条項を削除した。トルーマンは日本はけっして降伏しないと考え、原爆を落とすことを軍に命じたのである。

 しかし、マッカーサーは日本進駐を果たした後、昭和天皇に会うと、「天皇なしではこの国は統治できない」とはっきりと悟ったという。

天皇は行動と言葉により国民の心を動かす

 コロナ禍が起こってから、この国はまったくまとまらなくなった。安倍前首相は国難を前にして病気を理由に「逃亡」し、それを引き継いだ菅首相には、現在が国難であるという認識すらない。国会を開かず、国民に自粛を求めたのに、自分たちは勝手に会食を続けてきた。

 もし、菅政権にコロナ禍の現在が国難だという認識があれば、東日本大震災のときのように、天皇にメッセージを求め、国民を鼓舞する道を模索したはずだ。

 戦後の日本国憲法では「天皇は国民統合の象徴」とされ、憲法4条で「天皇 は国事行為のみを行い、国政に関する権能を有しない」と定められた。つまり、天皇は政治にかかわることはできない。

 しかし、天皇はその行動、言葉により、国民の心を動かすことはできる。とくに、緊急事態宣言が発令されている非常時においては、天皇によって国民がまとまることが大切だ。というより、そうすれば、この国はまとまるのだ。

 終戦の半年後、1946年2月から、昭和天皇は全国を巡幸した。国民と徹底的に触れ合った。この巡幸は1954年まで8年半続いた。その後、この国民との触れ合いを明仁天皇(現上皇)が引き継ぎ、さらに現天皇である徳仁天皇も引き継いでいる。

 コロナ禍は、改めて、私たち日本人がどういう国のかたちのなかで生きているのかを考えさせてくれる。

(了)

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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