連載509 山田順の「週刊:未来地図」世論調査は操作されているのか? 菅内閣の支持率が前月比で上昇した謎を解く(中)
フジテレビと産経のでっち上げ調査
いまや、メディアが報じる世論調査、内閣支持率を、そのまま受け取る人間は稀だろう。ハナから信じない人間も多い。とくに昨年、フジテレビと産経新聞の世論調査で、委託先の下請けの回答がデッチ上げだったことが発覚したときは、「やはりね」という声がネットにあふれた。
この事件は、下請けが経費を削減して儲けを増やそうとしたために起こった。下請けのコールセンター責任者は、架空の回答を1回につき百数十件、計2500件(総調査件数の約17%)も不正に入力していた。
この調査は毎月、コンピュータで無作為(ランダム・サンプリング)で選ばれた全国の18歳以上の男女約1000人を対象にして、電話(固定500、携帯500)で行われていた。世論調査としてはよくある方法だが、そもそも電話をしないでデータをでっち上げていたのだから、話にならない。
また、電話をきちんとかけていたとしても、この方法には限界がある。なぜなら、聞き方ひとつで、答えが変わってしまうからだ。単純に「支持しますか」「支持しませんか」の2択で、世論調査と言えるだろうか?
結局すべて「丸投げ」でチェックなし
フジテレビと産経新聞のでっち上げ調査の発覚は、各方面に大きな波紋を呼んだ。その後、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会で検証が行われ、今年の2月に報告書が出た。 それによると、フジテレビは担当局員を1人しか配置していなかった。そのため、チェック体制の甘さが指摘され、「慣れのなかで業務が続けられていた」と結論づけられた。
要するに、下請けに丸投げで、なにもチェックしていなかったのだ。世論調査結果が報道されることで、それがまた世論を動かすこともあることを思うと、ただちになんらかの改善策が実行されなければならない。
しかし、フジと産経はもちろん、ほかのメディアの世論調査方法が、この事件で大きく変わったとは、今日まで聞いていない。
相変わらず、電話による選択式の調査が行われているのだ。
電話調査の選択式の質問に問題がある
よく、メディアが行う世論調査は、「都合のいいように操作されている」という言説がある。しかし、私の経験から言って、それはほぼありえない。少なくとも大手メディアは、下請けの調査会社に委託しようと、それなりの費用と人手をかけて行っている。
ただ、問題は、その方法がきわめて信ぴょう性に乏しいということだ。
でっち上げは論外だが、いま、いちばん多く行われている無作為電話調査には、大きな欠点がある。サンプルはコンピュータが乱数を用いて勝手に選ぶので、その点は仕方ないとして、質問方法があまりに単純すぎて、調査対象者の本当の意思を反映しているかどうか疑わしいからだ。
たとえば、毎日新聞の世論調査では、内閣支持率の選択肢は「支持する」「支持しない」「関心がない」の3択である。また、朝日新聞の世論調査では、「支持する」「支持しない」の2択だけだ。
これを電話で聞くだけで、その答を集計し、「支持する」○%、「支持しない」○%と出す。もちろん、その理由を聞くが、それも選択式だ。となると、メディアによって、その数値に開きが出るのは当然ではないだろうか。よって「毎日のほうが朝日より支持率が高い」などということは、ほぼなんの意味も持たないのではないか。
世論調査には、統計学的に正しい調査の手法を用いなければならない。そうでないものは世論調査とは言えないが、いちおう、この無作為による電話調査は、統計学的には正しいとされている。
(つづく)
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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