連載515 山田順の「週刊:未来地図」日本政府は半導体パニックを軽視 台湾歓迎で自動車産業まで衰退の危機に!(下1)
「垂直統合」から「水平分業」に乗り遅れ
半導体は、かつて「産業のコメ」と呼ばれ、日本企業が世界中に「メモリ」(記憶装置)、とくに「DRAM」(Dynamic Random Access Memory:ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ)を供給してきた。
半導体製造には複雑な工程が必要だったので、技術的な擦り合わせが得意な日本企業には適していた。当時は、設計から製造まで1社で行なっていたので、「垂直統合」と呼ばれた。
ところが、1980年代から分業化が進み、ファブレス、ファウンドリなどに分かれ、いわゆる「水平分業」に移行するようになった。
ファブレスは、半導体の製造を「IDM」(Integrated Device Manufacturer:設計から製造までを垂直統合で請け負う半導体メーカー)に委託していた。そのため、ファブレスの誕生とほぼ同時に、製造だけを請け負うファウンドリが生まれ、急成長を遂げた。台湾のTSMCがその典型だ。また、半導体の設計だけをする「デザインハウス」も生まれた。アップルは、ある意味で、世界最大のファブレスと言えるだろう。
1990年代になると、ファウンドリが雨後のタケノコのように誕生し、さらに分業化が進んだ。そのなかにあって、日本企業はDRAM製造で、依然として垂直統合を続けていた。
しかし、2000年代に入ると、分業化はさらに進み、分業できない日本企業は衰退する一方になった。日本の半導体産業が世界をリードしていたのは1990年代半ばまでである。それまでは、世界の半導体売上高トップ10は日本企業がほぼ独占していた。
特化した半導体メーカーしか生き残っていない
日本の半導体敗戦の象徴的な出来事は、2012年2月にDRAM製造で世界第3位だった「エルピーダメモリ」が倒産したことだろう。その結果、エルピーダは、米マイクロン・テクノロジに買収された。
そして、2018年、最後に残った東芝は、政府の原子力政策に巻き込まれ、米ウエスティングハウスを買収したために経営が傾き、メモリ製造の子会社「東芝メモリ」を、米投資ファンドのベインキャピタル(米日韓連合)に売却した。その後、社名は、「キオクシア」と変更され、現在は「NAND型フラッシュメモリ」(不揮発性記憶素子のフラッシュメモリの一種、PCやスマホなどの記憶媒体として使用される)を主力商品とする半導体メーカーとなった。
ルネサスは、2010年に、NEC本体から分社化したNECエレクトロニクスと三菱電機と日立製作所の半導体部門が合体して誕生した。産業革新機構、トヨタ、日産など9社を割当先とする総額1500億円の第三者割当増資を受け、マイコンやカーナビゲーション用の「システムLSI」(System Large-Scale Integration:システム大規模集積回路)に特化して、現在にいたつている。
いま、日本の半導体産業で世界での競争力を持っているのは、このルネサスと「NANDフラッシュメモリ」に特化したキオクシア、「CMOS(シーモス)イメージセンサ」(CMOS image sensor:光を電子情報に変換する半導体基幹部品:スマホ、デジタルカメラ、車載カメラなどで使われる)を得意とするソニーだけである。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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