連載531 山田順の「週刊:未来地図」マスクなしの日常生活はいつからできるのか? 高齢者優先のワクチン接種への疑問(完)

連載531 山田順の「週刊:未来地図」マスクなしの日常生活はいつからできるのか? 高齢者優先のワクチン接種への疑問(完)

なぜワクチン接種は高齢者が優先なのか?

 ここで、日本の接種の進捗を予測してみたい。これまでの厚労省の発表によると、3月中に行われた接種実績は、1日平均約5万回である。

 そこで、もし今後もこのペースが続くとすると、1カ月に150万回、年間1800万回となるので、国民全員(約1億2600万人)が接種が終わるのはなんと7年かかることになる。これは1回接種でカウントしているので、本当はその倍の14年である。

 まさか、こんなことはありえないが、前記した2022年半ばまでに達成すると、1カ月1000万回、1日平均100万回近くは必要となる。はたしてこれができるだろうか?

 そこで、思うのは、なぜワクチン接種の優先順位に、高齢者が先に来ているのかということだ。

 私は自身が65歳以上の高齢者なのに、ワクチン接種は現役世代を優先すべきだと思っている。老人は若者よりあとでいいのだ。
 なぜなら、社会を動かしているのは現役世代であり、彼らがいち早くワクチンを接種して、社会と経済を回すべきだからだ。高齢者はほとんど社会活動、経済活動をしていない。しかも、歳が上にいくにつれて、老人施設に入っている人も多くなる。また、高齢者は現役世代より、確実に早く死んでいく。

 それなのになぜ、ワクチン接種を優先するのか、合理的な理由がない。

 政府の新型ワクチンの接種計画では、65歳以上の高齢者は、医療従事者に続いて優先的に接種すると決められている。その理由は、コロナによる死亡者の9割以上が60歳以上であり、高齢者は若い人に比べて死亡リスクが高く、同時に、重症化するリスクも高いからという。

 要するに、少しでも重傷者、死者を減らすことを、最優先にしているのだ。

なんのためにワクチンを打つのか?

 多くの人が、高齢者優先を当然のことと考えている。コロナに罹ったら、重症化する、死亡するリスクが高いのだから、助けてあげるべきだと考えている。若者はリスクがほとんどない。無症状の者も多いので、それを考えれば当然ではないかと考えている。

 しかし、ワクチンはなんのために接種するのだろうか?このことを根本的に考えなければならない。

 私の結論は、ワクチン接種は、自分のためではなく、社会のためである。ワクチンは、自分が罹らないようにするため打つのではない。打つことによって、以前と同じ社会活動、経済活動に復帰できるのだから、ワクチンを打つのは、社会のためである。

 これは、人口の多くがワクチンを接種すれば集団免疫ができ、それによって感染拡大が防げることを思えば、当然の結論ではないだろうか。

 高齢者は、現役世代に比べて、出歩かない。その点で、感染を広げる危険性は小さい。感染源にはなりえない。ならば、まず若い世代、現役世代から接種を行い、できる限り早く集団免疫を獲得する。集団免疫ができれば、高齢者も安心して暮らせるようになる。

 高齢者のワクチン接種を急ぐ必要があるだろうか。

 ワクチンの予防効果は「発症予防」であって、「感染予防効果に関しては、まだ実証されてはいない。しかし、ワクチン接種成功国で、感染者が劇的に減っていることを見れば、感染拡大が防げるのは確かだと思われる。

ワクチンを打たなくとも寿命が来れば死ぬ

 現在の日本は、世界一の「高齢社会」である。1年間で、約140万人が死んでいく。2020年の死亡数を見ると、138万4544人である。

 これは、1カ月で見ると12万人弱、1日にすると約4000人が死亡しているということになる。この4000人は、ワクチンを接種しようとしまいと、やがて寿命が尽きて死んでいく人たちだ。

 そこで、たとえば平均寿命を超えた85歳の男性で、ガンや血管系などの基礎疾患のある人にワクチンを打つことを考えてみよう。この人が施設に入っていて、そこで集団接種を受けて1週間後に死亡したとしよう。そのとき、ワクチンの副反応が当然問題になるだろう。

 しかし、この人はワクチンを打たなくても1週間後に死んだかもしれないのだ。そうならなかったとしても、余命はわずかで、1年後、2年後には死んでいく運命にあったのである。

 ワクチンは任意接種である。厚労省は、日本の高齢者人口を3600万人と規定し、その分のワクチンを用意するとしている。しかし、このなかには打ちたくない人もいるだろうし、認知症で判断能力を失った人もいるだろう。

 現在、メディアのワクチン報道には、こういった視点がまったく欠けている。

 じつは、世界でも珍しく、ワクチン接種を現役世代、つまり生産年齢人口を優先すると決めた国がある。インドネシアである。インドネシアは、現在、中国のシノバック・バイオテック(科興控股生物技術)のワクチンによる接種が進んでいる。アストラゼネカからの供給が遅れ、一般国民への接種はまだ始まっていない。

 しかし、現役世代を優先する接種を開始したら、その結果がどうなるかは注目である。はたして、いちはやく集団免疫が達成されるだろうか?

(つづく)

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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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