連載542 山田順の「週刊:未来地図」「安価地獄」に陥った日本(2) ここまで物価が安いという現実を直視せよ!(上)

連載542 山田順の「週刊:未来地図」「安価地獄」に陥った日本(2) ここまで物価が安いという現実を直視せよ!(上)

 前回のコラムでは、100円ショップ、回転寿司、ディズニーランドの入場料などを世界と比較して、日本のモノとサービスがいかに安いかを述べた。まさかここまで安いのかと、改めて思った人も多いのではと思う。

 しかし、モノやサービスだけではなく、1人当たりのGDPも給料も安いとなると、問題は深刻である。このまま限りなくデフレが続くと、日本は立ち直れなくなるからだ。

 なぜ、日本は「安価地獄」に陥ってしまったのだろうか?ここから脱出するにはどうしたらいいか? を考えてみたい。

日本だけ給料が上がらなかった

 物価安より深刻なのが、日本の給料の安さだ。2020年の厚生労働省の調査によると、大卒の初任給の平均額は約22万6000円(通勤手当を含む)。ここ10数年で上がってはいるものの、それはほんのわずかであり、ほぼ横ばいの状態が続いている。

 また、国税庁の「民間給与実態統計調査」によると、1990年の平均給与は425万2000円で、その後しばらくは上昇したが、1997年の467万3000円をピークに下がり始め、2019年は436万4000円まで下がっている。

 初任給は横ばいで、給料は下がり続ける。これが30年間にわたって続いてきたのが、わが国なのである。まさに、「失われた30年」と言うほかなく、いま、私たちは、その後に襲ってきたのがコロナ禍の真っ只中にいる。

 日本の賃金が上がらない状況は、先進諸国から見ると異常である。OECDの統計を見ると、2000年から2018年までの間で日本は106ドル増加しているが、アメリカは9189ドル、ドイツは6497ドル、イギリスは5862ドルも増加している。韓国にいたっては、1万390ドルも増加し、いまや1人当たりのGDPで、購買力平価ではもちろんのこと、名目でも日本を追い抜こうとしている。

 しかし、なぜか日本のメディアは、警鐘を鳴らさない。コロナ禍の影響で、企業業績が悪化し、失業者も増えているので、この先、給料はさらに下がるだろう。となれば、この問題をもっと深刻に捉えてもいいはずなのに、メディアは口を閉ざしている。そのため、多くの日本人が、現在、自分たちが置かれている状況にさほど違和感を抱かない。給料が安い以上に、物価が安いからだ。

 前回のメルマガで詳述したが、日常生活に必要な生活用品をほぼ100円で買える国は、日本だけである。「100均」は、日本にしかないのだ。

世界基準の給料を出すと非難される

 たとえば、中国のファーウエイ (華為技術)が、2017年、日本法人の「新卒初任給40万円」(院卒は43万円)を発表したとき、日本のメディアはなんと言っただろうか? 

 多くのメディアは、「日本の優秀な技術を獲得するために初任給を高く設定している」と、非難したのである。まるで、人材獲得だけのためにわざと高くしたと言わんばかりだった。

 しかし、非難すべきは、初任給が安い日本企業のほうではないだろうか。このとき、ソニーの初任給は、大卒で21万8000円、大学院卒で25万1000円だった。これは、世界的なハイテク企業では、ありえない異常な安さだ。

 アメリカでも、欧州でも、ITエンジニアは、ファーウエイのレベルの初任給で募集されているからである。

 香港、シンガポール、インドでも、日本の初任給では人材は集まらない。最低でも30万円は必要だ。シリコンバレーになると、年俸1000万円を超える初任給が珍しくない。優秀な人材を集めるには、給料で報いるほかないからだ。

 となると、ファーウエイの初任給40万円でも見劣りする。まして、日本企業は別世界にいるとしか思えない。

 当時、「ファーウエイにはぜひ派遣請負で安く買い叩いている日本企業をしばき倒していただきたい」という旨のツイートがあったが、この若者のほうが、よほど世界がわかっていた。

(つづく)

この続きは5月26日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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