連載545 山田順の「週刊:未来地図」「安価地獄」に陥った日本(2) デフレを放置したままだと先進国転落は確実(完)

連載545 山田順の「週刊:未来地図」「安価地獄」に陥った日本(2) デフレを放置したままだと先進国転落は確実(完)

「物価安」「低賃金」が続くとなにが起こるか?

 もはや、日本の「物価安」「低賃金」は、看過できないところまできている。なぜなら、デフレの無限ループの影響で、日本は先進国からすべり落ちようとしているからだ。このままいけば、日本は確実に先進国ではなくなり、中進国、いや貧乏国家になっていくだろう。

 なんといっても最大の問題は、日本を支える「ものづくり」が成り立たなくなることだ。すでに、日本は世界の技術開発の最前線から脱落しようとしている。高賃金が払えなければ、高度人材は集められない。

 ハイテク技術者の賃金がこれほど低いと、日本企業から技術はどんどん海外に流出する。NTTでは研究開発人材の約3割が、すでに「GAFA」などに引き抜かれたという。

 また、日本を支える中小企業でも、世界に通用する技術を持っているところは 工場と人材の丸ごと、資金が潤沢で高賃金が払える中国企業に買収されている。

 物価安は、日本の購買力低下につながる。そのため、ここ数年で、日本は国際相場についていけなくなった。日本は、資源買いでアジア諸国にも買い負けするようになり、1人当たりの魚介類消費が急減、いまや韓国以下になりつつある。「1皿100円」の回転すしも、いずれ成り立たなくなる可能性がある。

 最近、ひどいのは、かつて中国を外注先としていた日本のアニメ業界が、いまや中国の下請けに成り下がってしまったことだ。日本のアニメーターの賃金は激安なので、中国からのオファーを受けないと、アニメーターは食べていけなくなってしまった。

 前のメルマガで紹介した本『安いニッポン』(中藤玲、日経プレミアシリーズ)によると、中国のアニメーターの平均月収は杭州では3万4062元(約52万円)。一方、日本では月収17万5000円でも業界平均よりずっと高いという。現在、中国のテンセント(騰訊控股)などの大手プラットフォーマーは、豊富な資金力でアニメ制作をインハウス化している。

 ネットフリックスも、世界中の映画、ドラマ制作会社に出資している。日本は技術ばかりか、文化、エンタメまで下請け化されようとしているのだ。

次のターニングポイントは2025年

 少子化、高齢化、そして人口減が続くこの国を、昔のように豊かな国にすることが、はたしてできるだろうか?

 強制的に最低賃金を引き上げ、政府が春闘に介入しても、これ以上賃金を上げることは不可能だ。物価安ももう限界にきている。

 生活物価の低価格は維持できても、グローバルに価格が決定する製品やサービスは、下げることはできない。それが、スマホや自動車、通信料金などだ。

 打開策はただ一つ。日本も次世代をリードするハイテク産業、バイオ産業、環境産業を育て、イノベーションを起こすことに尽きる。これができなければ、私たちの将来は限りなく暗い。

 現在、次のターニングポイントされているのが、2025年である。「2025年問題」として、しばしば取り上げられている。これは、2025年をもって「団塊の世代」が75歳を超えて後期高齢者になるからだ。

 医療費はどうなるのか? 

 年金はパンクしてしまうか?

 コロナ禍もあったので消費税を再び引き上げざるをえないのか?

 など、さまざまな憶測が流れている。
 しかし、これらにもう弥縫策は通じない。本当の改革が行われない限り、日本はさらに貧乏な国になっていくほかない。

(了)

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【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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