連載558 山田順の「週刊:未来地図」なぜ日本は「デジタル後進国」になったのか?(下)

連載558 山田順の「週刊:未来地図」なぜ日本は「デジタル後進国」になったのか?(下)

手書きを打ち込みに代えただけのデジタル

 しかし、この港区の例は、その後、全国的なものにはならなかった。なぜなら、日野係長のような人材が、どこの役所にもいるわけではないからだ。また、いたとしても上司の許可なければ、慣習は変えられない。

 保健所のアナログ作業が問題になったため、その混乱と業務遅延を解消するため、厚労省は「HER-SYS」(ハーシス)という新しいシステムをつくった。これにより、感染状況をリアルタイムで把握できることになると、厚労省はメディアに喧伝した。

 ところがこれは、まったく使い物にならなかった。手書きが打ち込みに代わっただけで、操作が面倒なうえ、入力項目が1患者あたり200項目もあったからだ。また、ログインシステムも装着されていなかった。そのため、全国の医療機関も保健所も「かえって手間がかかる」と、FAX作業を続けたのである。

 今年になって、ワクチン接種開始とともに導入された「VRS」(ワクチン接種記録システム)も、ひどかった。

 このシステムは、自治体側があらかじめ整備している予防接種台帳や住民基本台帳から住民の氏名や生年月日、接種券の番号、マイナンバーといった情報を入力。国から配布されたタブレットで、接種会場で予約した人が持参した接種券の18桁の数字列を読み取るようになっていた。

 ところが、タブレットでは18桁の数字列が読み取れなかったのだ。そのため、タブレットは放置され、結局、手打ち入力になってしまったのである。 「COCOA」(ココア)といい、「HER-SYS」(ハーシス)といい、そしてこの「VRS」といい、システムは民間IT企業に丸投げされており、それぞれ数十億円もの税金が注ぎ込まれていたのである。

デジタル環境は上に立つ者がつくる

 前記したように、このような欠陥システムが平然とつくられてしまうのは、日本の役所、会社がタテ社会で、年功序列制度を維持しているからだ。このシステムでは、上にいくほど時代遅れになり、スキルも知識も下より劣るようになるので、作業は現場任せになる。

 役所の場合、現場は懇意にしている業者に丸投げする。つまり、組織内の誰もデジタルを理解しておらず、チェックもできないのだ。

 どんな組織でもそうだが、上に立つ者は、業務に精通していなければならない。ただ、組織を管理するだけでは、現在のデジタル社会では通用しない。

 人間は、環境に適応して生きる。組織も環境だから、組織にデジタル環境がなければ、誰もデジタルを使わない。紙とハンコと電話で仕事をしていれば、スマホを持っていても、ほとんどプライベートでしか使わない。

 では、こうした組織の環境は誰がつくっているのだろうか? それは、組織のリーダーである。つまり役所ならそのトップ、会社ならやはりトップがデジタルリテラシーを持っていなければ、デジタル化はできないのだ。

 これは学校でも同じだ。校長や教師のデジタルリテラシーが生徒に及ばないのだから、オンライン授業などできるはずがない。

 しかも、日本ではデジタルリテラシーが低く、PCやスマホが使えない老人を甘やかし、彼らに合わせていつまでも電話や紙を使い続けている。私の考えでは、年をとって人の助けがなければ社会生活ができなくなった高齢者は、それなりにフェイドアウトしていくべきだ。それが年を重ねた者の矜持ではないだろうか。

(つつく)

この続きは6月24日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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