連載578 山田順の「週刊:未来地図」コロナワクチン誕生秘話(2) なぜ日本はワクチン開発ができなかったのか?(下)

連載578 山田順の「週刊:未来地図」コロナワクチン誕生秘話(2) なぜ日本はワクチン開発ができなかったのか?(下)

 

アメリカは常に先行投資を惜しまない

 このようなスピード感は、日本にない。なぜないかというと、日頃からそんなことは考えもしないし、なんの準備もしていないからだ。

 じつは、アメリカ政府は国防省傘下の「DARPA」(防衛先端技術研究計画局)をとおして、2013年から、モデルナに資金援助をしていた。モデルナが創業してわずか3年の時点で、軍はmRNAやDNAのワクチンが重要だと気づいていたのだ。

 アメリカという国、とくに軍は、未来投資にはカネを惜しまない。常に最新兵器をつくり、覇権を維持していくためには、それが重要だと考えているからだ。こうして、原爆もインターネットもできた。新たな感染症が人類の脅威になると気づき、そのためになにをしておくべきか、考えて手を打つ人間が政府内にいるのだ。

 アメリカ軍はこれまで、毎年、数千万ドルをバイオベンチャーにばら撒いてきたという。そうすれば、いざというとき、どこかの研究が役に立つ。その研究が臨床試験までいっていれば、それに超したことはない。そうすれば、感染症のパンデミックが起きたとき、新しいワクチンを最短で大量生産し、それをまず軍に投入し、安全保障を維持できる。

 つまり、将来役立ちそうな先端研究には、その価値を徹底して評価しなくとも、可能性だけで先行投資するのだ。

ワクチン確保のためになにをしたか?

 アメリカが「ワープスピード」作戦を始めたとき、日本はなにをしていたか?

 あの評判最悪のアベノマスクに400億円以上もつぎ込んでいたのである。

 日本政府が、ワクチン開発に関心を持ち出したのは、第2波が収まり始めた2020年の夏になってからだった。アメリカや中国などで、ワクチン開発が進んでいるという報道がさかんになされるようになって、これは日本も乗り遅れたら大変だと、初めて気が付いたのだ。

 しかし、東京五輪が延期されたこともあり、政府の動きは鈍かった。危機感がないのである。ただ、仮に危機感があったとしても、日本政府はなにもしなかっただろう。

 日本政府がしたことは、厚労省の役人を使って、とりあえずワクチンを確保することだった。

 ワクチン確保が国の生死を決定すると、英国のボリス・ジョンソン首相も気づいていた、そのため、英国では「史上最大のワクチン接種プログラム」と位置づける計画を立て、タスクフォースを結成した。このタスクフォースは大手製薬会社の元幹部などを主要メンバーとする官民一体の組織で、ワクチンの確保にあたった。

 その結果、アストラゼネカとオックスフォード大学が共同開発するワクチンを1億回分確保。さらに、ファイザー、モデルナも確保した。

 日本は、厚生省の役人がアストラゼネカやファイザーの日本代理店と交渉していたというから、話にならない。

(つづく)

 

この続きは7月26日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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