連載581 山田順の「週刊:未来地図」五輪強行開催後の日本経済: 不況は深刻化し、株価も不動産も下落する悪夢(中1)

連載581 山田順の「週刊:未来地図」五輪強行開催後の日本経済: 不況は深刻化し、株価も不動産も下落する悪夢(中1)

 

結局のところ損出はどのくらいなのか?

 野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミスト(元日銀審議委員)は、7月8日、東京都と沖縄県への緊急事態宣言の発令・延長による経済損失は1兆円を超えるとの試算を公表した。また、無観客では有観客開催の場合の経済効果の約62%が失われるとした。

 7月10日の朝日新聞記事では、関西大学の宮本勝浩名誉教授(理論経済学)が、オリ・パラ見直しによる経済損失を試算している。それによると、オリ・パラが昨年、すべて予定通りに開催されていた場合の経済効果は、すでに完成している会場への建設投資などを含めて推計8兆5575億円。これに対して、1年延期と無観客で計約2兆4133億円の経済損失が生じるので、経済効果は6兆円強に目減りするという。さらに、大会後に期待された、観光客や留学生の増加、産業の振興などの「レガシー効果」も吹き飛んだと指摘している。

 私は、もとよりコロナ禍での五輪開催には反対だったが、どうせやるなら、感染対策を完璧にやり、海外からの観客も入れて通常通りに開催すべきだったと思う。

 というのは、最終的に無観客にしたことで、海外VIP、スーパークラスのほとんどが来日しなくなったからだ。

 五輪をスポーツの祭典だと単純に思い込み、無観客にしてしまった日本政府の政治判断は愚かすぎる。五輪はスイスのダボス会議と同じく、VIPやスーパークラスの社交の場で、これにより、政治、経済、国際情勢が動いていく。それがなくなり、日本の存在感は薄くなる一方になってしまった。これは、カネには代えられない損出である。

そもそも五輪の経済効果とはなにか?

 今 東京五輪は、「復興五輪」(=東日本大震災後の経済衰退から回復する)、「コンパクト五輪」(=経費が少ないうえリターンが大きい)とされた。そのため、経済効果が大いにもてはやされた。しかし、そんな絵に描いたような経済効果があるものなのだろうか?

 五輪の経済効果についての公式の試算というものがある。東京都オリンピック・パラリンピック準備局が、2017年4月に公表した「東京2020大会開催に伴う経済波及効果」という文書である。

 それによると、需要増加額の計算として「東京2020大会開催に伴う東京都の需要増加額は、直接効果で約2兆円、レガシー効果で約12兆円、合計で約14兆円」とされていた。その後、この試算は何度かバージョンを重ねたが、2020年暮れの「バージョン5」における直接効果は約1兆8000億円となっている。

 この試算のうち「レガシー効果」は、ただ風呂敷を広げただけで試算とは呼べないないので、切り捨てる。そうすると、当初の直接効果の約2兆円はなにかとなるが、その中身は、新国立競技場などの施設整備費、観戦者の消費支出(交通費、宿泊費など)、五輪関連グッズの売り上げ、テレビやスマホなどの購入費などを積み上げたものである。要するに、五輪関連でいくらおカネが使われるのかの試算だ。 

(つづく)

 

この続きは8月6日(金)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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