連載582 山田順の「週刊:未来地図」五輪強行開催後の日本経済: 不況は深刻化し、株価も不動産も下落する悪夢(中2)
観光客は増えてもビジネス客は減った
そこで、そのなかの一つ、観戦者の消費支出を例にしてみると、はたして五輪をやったぐらいでこれが激増するとはとても思えない。
たとえば、2012年のロンドン五輪では、たしかに海外からの観光客は増えた。しかし、英国の国家統計局が出した公式記録では、五輪期間中のロンドンでの全体としての宿泊客はほとんど増えなかったとなっている。
これは、観光客が増えた分、ビジネス客が減ったからである。もちろん、五輪観戦に来た観光客はビジネス客よりはおカネを使った。しかし、それはたいした額ではない。
こう見ると、五輪の経済効果のほとんどは、スタジアムや選手村などの建設に伴う建設需要が中心で、それが終わればたいした効果など望めないのだ。すでに東京の不動産価格は下落しており、コロナ禍が続けばさらに下がる。マンション販売業者は、ここ2年、頭を抱えている。
経済効果には「負の波及効果」もある
経済効果を試算するには、その選出のベースとなるデータが必要だ。それを、試算ソフトで「産業連関表」に基づいた各項目に入力すると、自動的に数字が出てくるようになっている。つまり、入力データによっていかようにも経済効果の額は変化する。
しかも、基礎データ自体がどうしてもたらされるかに関しては問われない。 たとえば、ドラマや映画などの影響で、ある観光地に飛躍的に観光客が増えたとすると、その経済効果をもたらしたのは、別の観光地かもしれない。なぜなら、その観光地に行った人たちは、ブームがなければ別の観光地に行ったかもしれないからである。
つまり、経済効果には「負の波及効果」もある。東京五輪に来るような人々は、そのときにほかのイベントがあればそこに行ったかもしれないのだ。
これを国内で考えると、ある地方の消費が五輪のある東京に移動したにすぎない。
となると、本当に日本にカネ、つまり経済効果をもたらしてくれるのは海外からの観光客であり、今回は受け入れを中止したのだから、経済効果などあるはずがない。
本当に経済効果を考えるなら、日本全体の経済、GDPに照らして考えなければいけない。しかし、それはまったく増えないばかりか、コロナ禍で大きく落ち込んでいるのだ。
もう一つ、東京で五輪があることで、地方から人とカネが東京に移動する。となると、地方は「負の波及効果」を受けることになる。これを別の言葉で「ストロー効果」と言い、なにか大きなイベントやブームがあると、そこに吸い上げられて、周囲は貧しくなってしまうのだ。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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