連載583 山田順の「週刊:未来地図」五輪強行開催後の日本経済: 不況は深刻化し、株価も不動産も下落する悪夢(下1)
五輪後の「反動不況」はあるのか?
五輪が開催されるはるか前から、五輪後は不況になると言われてきた。五輪前は政府によって財政が出動され、大型の公共投資が続く。しかし、五輪後はそれがなくなってしまう。つまり、「反動不況」がやって来るというのだ。これは、歴史が証明している。
1964年の最初の東京五輪も、五輪後に不況になり、このとき初めて「赤字国債」が発行され、以後、それがとめどなく積み上がって現在にいたっている。
最近の五輪開催を見れば、 2008年の北京も、2012年のロンドンも、開催後に赤字を計上している。新しくつくられた施設の需要が減り、設備の原価消却と維持費などの経費が捻出できなくなったからだ。とくに北京は、国の威信をかけてあれだけの巨大施設をつくったため、その反動は大きかった。ロンドンの場合は、開催直後は黒字になると言われたが、最終的には赤字になった。
もう一つ、五輪にはジンクスがある。それは、開催国は開催後、必ず経済成長率がダウンするということだ。これが顕著だったのが北京で、中国は前年に経済成長率14%を記録したのに、開催年と翌年は9%台にまでダウンした。
1988年のソウル五輪以降の夏季6大会で経済成長率を見ていくと、開催年よりその翌年が上昇したのは1996年にアトランタ五輪を開催したアメリカだけである。
しかし、今回の東京五輪は、こうした過去のどんなケースにも当てはまらない。なにしろ、コロナ禍で開催前にすでに成長率はマイナスだし、公共投資による経済波及効果は終わっているし、海外観光客も来ない。これだけ異例な大会だから、記録的な赤字と、その後の反動大不況を記録するのは間違いないだろう。
当初予算7340億円が3兆円超え
いま思えば悪い冗談としか思えないが、安倍前首相は、「人類が新型コロナウイルス感染症に打ち勝った証として、完全なかたちで東京オリンピック・パラリンピックを開催する」と言った。この言葉に縛られ、ただ希望的観測だけで、菅政権は五輪開催に突き進んだ。愚の骨頂である。
おそらく、菅政権は、ここまで注ぎ込んだおカネと労力を考えると後に引けないと、いわゆる行動経済学の「サンクコスト」(埋没費用)の回収にこだわったのだろう。つい最近まで、「多額の税金をつぎ込んでいるから、開催すべき」という主張があったことが、このことを物語っている。
しかし、いま思えば、これも悪い冗談としか思えないのが、猪瀬直樹前都知事のツイッター発信だ。「誤解する人がいるので言う。2020東京五輪は(中略)世界一カネのかからない五輪なのです」
それなのに、いつのまにかコストはどんどん積み上がった。招致段階では7340億円だった予算は、昨年暮れ、組織委が公表した段階で、総額1兆6440億円になっていた。もちろん、総額はそんなものではすまない。
当時、会計検査院は、「国はすでに関連経費を含めて1兆600億円を支出した」と指摘したし、東京都も2020年1月時点で、「関連経費は7770億円」と発表していたからだ。これらをのせると、大会経費は昨年末時点ですでに3兆円を超えている。
(つづく)
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※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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