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2025.01.10 COLUMN NEWS NY 津山恵子のニューヨーク・リポート

津山恵子のニューヨーク・リポートVol.47 中居氏の謝罪、アメリカではあり得ない ジャニーズ問題を繰り返し人権蹂躙

 

津山恵子のニューヨーク・リポートVol.47

中居氏の謝罪、アメリカではあり得ない
ジャニーズ問題を繰り返し人権蹂躙

 

週刊文春が年末、中居氏が9000万円もの示談金を
払っていたと報道(同誌のXスクリーンショット)

女性との性的トラブルが表面化したタレントの中居正広氏が9日、謝罪文を発表した。しかし、中身は驚くべき常識はずれの内容だった。これがアメリカなら、企業は広告契約を終了しているし、とっくに芸能生命を絶たれているはずだ。  

これほど穴だらけの謝罪文を出してしまうのは、芸能界だけでなく、日本社会全体が女性や弱者が犠牲となる性的トラブルを軽視しているためだろう。  

まず、「トラブルがあったことは事実」「示談が成立し解決」、イコール、性的なトラブルはあり、示談金で事実を認めたことになる。週刊誌を通じて、被害者の女性は告発している。二人きりの密室で、拒否したにもかかわらず、性的行為を強いられたという事実。被害者だけではなく、多くの女性が身の毛のよだつような嫌悪を感じる行為だ。女性の人権を踏みにじっている。  

さらに週刊誌の報道によると、テレビ局の社員が会合を呼びかけ、自らを含め中居氏と女性以外が欠席し「現場」を仕掛けた。これも報道機関の役割を担う放送局が、弱者の人権を無視してタレントを接待したという大問題につながる。  

ところが、性的トラブルの問題が年末に報道されてからテレビ局はどこも沈黙していた。これは、英BBCが故ジャニーズ喜多川のジュニアに対する性加害を報じてから、日本の業界全体が半年も無視し続けた時と全く同じだ。その後、最大で千人を超える将来がある未成年らが犠牲となったことが判明。一つの芸能事務所で、それだけ多くの犠牲者が一生抱える耐え難い苦痛を味わったという、世界でも例を見ない事件だ。  

アメリカでは2017年、大物プロデューサー、ハーベイ・ワインスタインが、女優らにレイプや性的暴行を加えていたとニューヨーク・タイムズがスクープ。この後、彼は起訴されて裁判で30年超の禁固刑となり(事実上の終身刑)、彼の映画会社は破産した。  

性的トラブルやセクハラを告発しようという#MeToo運動は、これをきっかけに世界に広がった。欧米では、俳優、テレビのアンカー、閣僚、議員が告発され、姿を消した。8年後の今でさえ、復活した人物はいない。それほどに女性の人権蹂躙は、社会的に許されない。もちろん、一掃されたのは有名人ばかりで、名もない女性らが今でも犠牲になっている状況は変わらないだろう。  

しかし、人気タレントの中居氏は謝罪文で「示談が成立したことにより、今後の芸能活動についても支障なく続けられることになりました」とする。性的トラブルが事実であったのに、お金で解決したから表舞台に立ち続けるという。欧米では普通に、報道を受けて活動を止めているのに、あり得ない謝罪文だ。これを許していいのだろうか。 (文 津山恵子)

津山恵子 プロフィール
ジャーナリスト。専修大文学部「ウェブジャーナリズム論」講師。ザッカーバーグ・フェイスブックCEOやマララさんに単独インタビューし、アエラなどに執筆。共編著に「現代アメリカ政治とメディア」。長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

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