(この記事の初出は2024年12月3日)
国民民主党が尊厳死の法制化を提唱
先の衆議院選挙で、もっとも注目されたのが国民民主党の公約「103万円の壁」である。しかし、それ以上に私が注目したのは、「尊厳死の法制化」を公約に掲げたことだ。
「社会保障の保険料を下げるためには、われわれは高齢者医療、とくに終末期医療の見直しにも踏み込みました。尊厳死の法制化も含めて—-」
党首会見で、玉木雄一郎党首がこう言ったことに、正直、私は驚いた。これまで、尊厳死の法制化を正面から提起した政党はなかったからだ。
かつて麻生太郎副総理(当時)が、寝たきり老人を「チューブの人間」と呼んだことがあった。「私は遺書を書いて『そういうことはしてもらう必要はない、さっさと死ぬんだから』と渡してあるが」と続けたが、メディアの猛批判を浴びて、最終的に発言を撤回させられた。
こうしたこともあって、政治家が終末期治療の是非に踏み込むことは、タブー視されてきた。なにより、票に結びつかない。
しかし、麻生発言は、言い方が乱暴なだけで、間違ってはいなかった。ただ、玉木発言も言い方が乱暴だった。莫大な終末期医療費を抑えるために、老人は早く死ねと言っているように誤解されたからだ。SNSでは「医療費を抑えるための尊厳死?」「命の選別をしろということ?」などの投稿が相次いだ。
「寝たきり老人」が数百万人も存在する国
多くの日本人、とくに若い層は、尊厳死がなにかを知らない。日本の終末期治療が、単に生かし続けるだけの延命治療になっている現実を知らない。麻生発言にあるように、それは「チューブの人間」をつくるだけである。
呼吸が困難になれば、気管切開などをしてチューブに繋いで呼吸させる。口から食物を摂れなくなれば、胃にチューブを入れて、胃ろうにより栄養を流し込む。また、糖尿病の悪化などで腎機能が低下すれば、チューブによって人工透析を行う。
いずれも、中止すれば、死はすぐにでも訪れる。
このような日本の濃厚な延命治療は、医療の名を借りた「虐待」と言える。こんなことは、諸外国ではありえない。とくに胃ろうは、食事が摂れなくなった重篤患者のために開発されたもので、終末期の延命治療などには使わない。
こうして、日本は世界でも類を見ない「寝たきり老人」が数百万人も存在する国になっている。療養病棟、老人施設などに収容されているそうした人々は、毎日、身動きできず、ただ天井を見て暮らしている。
欧米を比べると異様な日本の「老人施設」
欧米の老人施設と比べると、日本の老人施設は異様だ。高級老人ホームは別として、介護型の特養、老健、サ高住、介護医療院などに行けば、入居者の多くが車椅子や寝たきりである。
欧米の場合、元気な高齢者がほとんどで、スポーツをしたり、バーベキューをしたりして老後の人生を楽しんでいる。しかし、日本の場合、そう言う光景はあまり見かけない。
たとえば、介護医療院は、胃ろうを付けたり、透析を受けていたりする寝たきり患者でベッドが埋め尽くされている。部屋には、人工透析器などの医療機器が置かれ、透析が始まると、どこかでピーピーピーと、血圧低下を知らせる警告音が鳴り響く。
また、胃ろうを付けている患者は、ときどき暴れて胃ろうを外そうとするので、拘束バンドで両手を縛られていたりする。このような施設は、欧米にはほとんどない。(つづく)
この続きは1月14日(火)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。
※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。
山田順
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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