連載587 山田順の「週刊:未来地図」とうとう開幕! 東京「利権五輪」の裏面史を総括する(中1)

連載587 山田順の「週刊:未来地図」とうとう開幕! 東京「利権五輪」の裏面史を総括する(中1)

 

「五輪貴族」の度を超えた東京セレブ生活

 もし、無観客、酒類販売禁止などの措置が取られなかったら、会場内のVIPエリアで、「五輪貴族」(オリンピックファミリー)とスポンサー、内外の政治家を含めた関係者たちが、ワイングラス片手に、開会式を観戦しただろう。  

 フルコースディナーに高級ワインの飲食付きの「ホスピタリティ・パッケージ」は、110万円で一般にも販売されたが、一般人に手が届く金額ではない。10日間通しで635万円のパッケージも発売され、私の知人の富裕層の1人もこれを購入した。しかし、これらのVIPチケットはすべてパーになった。

 とはいえ、「セレブ観戦」はできなくなったとはいえ、五輪貴族の「セレブ滞在」は、いつも通り行われている。IOCのトップ、トーマス・バッハ会長は、早々と来日して、日本のホテルの部屋でいちばん豪華とされる1泊300万円の「The Okura Tokyo」(オークラ東京)のスイートに宿泊中(この記事の初出は7月20日)だ。

 これまで、日本国民の神経を逆なでするようなIOC幹部の発言が続いてきた。東京大会調整委員長のジョン・コーツ副会長は、5月8日、緊急事態宣言下でも「絶対に開催される」と述べた。実際、そのとおりになった。

 また、バッハ会長は競技団体の会合で「われわれは犠牲を払わなければならない」と宣言した。要するに、犠牲を払ってでもやってもらわないことにはカネにならないというのだ。ただし、その犠牲を払うなかに、五輪貴族は含まれない。

なぜノルウェーは五輪招致を辞退したのか?

 IOCと開催都市の間で結ばれる大会運営契約のなかには、IOC関係者のため、4~5つ星ホテルの部屋を提供することが明記されている。これらのホテルは、「オリンピックファミリーホテル」(OFH)と呼ばれ、部屋の配分はIOCが裁量で決めることになっている。また、オリンピックファミリーが宿泊中には、ホテルには五輪旗が掲揚され、ファミリーのための専用車も用意される。

 もちろん、IOCは宿泊費を支払う。しかし、それは規定で1泊400ドルまでで、それを超える分は組織委が負担することになっている。つまり、私たちの税金だ。

 ただし、今回は紆余曲折のすえ、IOCの独自の負担になったと報道された。しかし、その真偽は不明だ。 

 「ワシントン・ポスト」紙はバッハ会長を 「Baron Von Ripper-off 」(ぼったくり男爵)と揶揄したが、まさにそのとおりだ。なぜ、本当の王侯貴族でもない、アスリートの1人がここまでの利権、待遇を手に入れることができたのだろうか?

 それは、オリンピックが商業化され、さらにメダル獲得競争による各国のナショナリズムの高揚の場になったからだ。

 かつてノルウェーは、2022年の冬季五輪招致を辞退した。その理由は、IOCの要求が度を超していたからだ。IOC委員と国王とのパーティーを開催するところから始まり、豪華な食事と宿泊、運転手付きの専用車など、その要求はきりがなかった。IOCは高級ワインの銘柄まで指定してきたというから、さすがにノルウェーは切れた。

 ノルウェーのオリンピック委員会は「専制国家でなければこうした要求に応えられない」と、その理由をメディアに表明した。ところが、日本はIOCの要求をすべて受け入れ、五輪を招致したのである。

(つづく)

 

この続きは8月16日(月)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
【読者のみなさまへ】本メルマガに対する問い合わせ、ご意見、ご要望は、私のメールアドレスまでお寄せください。 → junpay0801@gmail.com

 

 

 

タグ :