連載600 山田順の「週刊:未来地図」 「カーボンニュートラル」(脱炭素)で、日本経済は低迷、国民はさらに貧しくなる(中1)

連載600 山田順の「週刊:未来地図」 「カーボンニュートラル」(脱炭素)で、日本経済は低迷、国民はさらに貧しくなる(中1)

 

あわててつくった脱炭素社会ロードマップ

 (この記事の初出は6月15日)

 G7を前にした6月9日、日本政府は脱炭素社会の実現に向けたロードマップをまとめ、それを公表した。題して「地域脱炭素ロードマップ」。地方自治体と官邸が協議してつくったので、こんなネーミングになったのだろう。

 それはともかく、菅政権は、バイデン政権になってから、あわてて地球温暖化対策に乗り出した。乗り出したというより、そうせざるをえなくなった。今回のロードマップは、その一環で、G7と国連COP が目標とする「2030年までに温暖化ガス半減」に沿ったものだ。  まず、全国で少なくとも100か所に「脱炭素先行地域」を設ける。そして、そこでは他地域に先駆けてカーボンニュートラルを実現する。この地域では2030年までに、家庭や企業などの電力消費にともなう温室効果ガスの排出を実質ゼロにするとした。

 「脱炭素先行地域」といってもピンとこないが、たとえばある都市の市街地、住宅地、または大規模団地などが指定される。また、農村、漁村、離島単位でも指定され、その地域内では、CO2を排出しない取り組みを徹底するというのだ。

 たとえば、公共施設では再生可能エネルギーの導入などによる脱炭素化を進める。屋上などに太陽光パネルの導入を位置づけ、パネルを設置している公共施設の割合を2030年で50%、2040年で100%とする。さらに、大量の電力を消費する都市部が、再生可能エネルギーによる発電を行いやすい地方から電力の供給を受けられるように連携を促進するという。

再生可能エネルギー発電への取り組み

 じつは、政府が音頭を取らずとも、すでに脱炭素化に取り組んでいる自治体、民間企業がある。たとえば、私が住む横浜市は、一昨年から、再生可能エネルギーによって発電された電力を使う取り組みを始めている。

 東北地方の13市町村と連携協定を結び、風力発電による電力を市内の事業所に提供している。

 その一つ、秋田県八峰町の「峰浜風力発電所」で発電された電力は、コメダ「珈琲所コメダ珈琲店横浜江田店」、特定非営利活動法人こらぼネット・かながわ「神之木地区センター」「菅田地区センター」、シマミネコーポレーション「シマミネ元町本店」、日本郵船「横浜港大黒C-3ターミナル」、公益財団法人・横浜YMCA「湘南とつかYMCA」などに供給されている。

 横浜市が試算したところ、市内で可能な限り太陽光パネルを設置しても、必要な電力需要の8%しかまかなえなかった。そのため、外部から再生可能エネルギーによる電力を供給してもらうほかないとなり、こうした取り組みが実現したのである。しかし、まだ始まったばかりで、事業所の数はそれほど増えていない。

 じつは、再生利用エネルギー使用が日本でもっとも進んでいるのが、鹿児島県の屋久島だ。

 屋久島では、人口1万3000人が使用する電力のほぼ100%を、島内の水力発電でまかなっている。いわゆるエネルギーの地産地消である。

 ただし、これが実現できたのは、屋久島が小さな島であること、降水量が多く豊かな水と傾斜が急な地形があること、さらに森林資源に恵まれていることなど、好条件がそろったからである。

 ほかのところでは、こうはいかない。その意味で、いくら政府が「脱炭素先行地域」を指定したからといって、それがうまくいくとは限らない。

(つづく)

 

この続きは9月2日(木)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。  ※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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