連載602 山田順の「週刊:未来地図」 「カーボンニュートラル」(脱炭素)で、日本経済は低迷、国民はさらに貧しくなる(中3)

連載602 山田順の「週刊:未来地図」 「カーボンニュートラル」(脱炭素)で、日本経済は低迷、国民はさらに貧しくなる(中3)

 

車載電池のCO2排出、日米欧で共通ルール

(この記事の初出は6月15日)

 G7開催中に、日米欧の自動車メーカーやクラウド大手などでつくる国際団体「MOBI」(通称:モビ、Mobility Open Blockchain Initiative:モビリティ・オープン・ブロックチェーン・イニシアチブ)が、車載電池のCO2排出量を正確に把握するための国際ルールをつくることを発表した。

 このシステムは、「LCA」(Life Cycle Assessment:ライフサイクルアセスメント)の一環で、EVの生産から廃棄まで一貫してCO2の排出状況を記録・共有するというものだ。LCAでは、「資源採取―原料生産―製品生産―流通・消費―廃棄・リサイクル」というサイクルで、CO2の環境に対する負荷を評価する。

 今回の新システム開発は、LCA導入を図っている欧州のEVレギュレーションに合わせたものだ。EUでは2023年を目途にLCAが導入されることになっている。さらに2024年からは、産業用蓄電池の生産、物流、利用、廃棄の各段階でのCO2排出量の記録を義務付ける方針を表明している。

 EUの中心はドイツである。EUはドイツ連邦と言っても過言ではない。そのドイツが主導して、EV1本化政策が進んでいる。

 すでにEUは2030年代にガソリン車やHEVを含む内燃機関を全面的に禁止し、電池駆動のEV以外は域内での生産・輸入を認めないことを決めている。また、乗用車のCO2排出量の企業平均目標を2030年までに60g/km以下に減らすことも決めている。これが守れないメーカーには、巨額の罰金を科すというのだから、手厳しい。

 もちろん、EUを離脱したイギリスも、バイデン政権になったアメリカも、いまEV1本化を進めている。アメリカでは、カリフォルニア州ははじめとした各州単位で、2030年代にガソリン車の販売が禁止される法案が成立している。

 このように、世界でEV1本化政策が実施されると、日本の自動車メーカーは圧倒的に不利になる。たとえば、トヨタの「プリウス」のようなHEVは、EUやアメリカをはじめ、中国でさえ、生産・輸出ができなくなってしまう。

 このままいけば、日本の自動車産業は、家電や半導体、液晶などと同じく、「ものづくり敗戦」を喫してしまうだろう。

トヨタもとうとうCO2削減目標を前倒し

 トヨタは、6月11日、2035年までに世界の自社工場でCO2の排出を実質ゼロ(カーボンゼロ)にする目標を発表した。もう完全に尻に火が点いたと言える。

 これまでトヨタは、カーボンゼロの目標年を2050年としてきた。それを15年も前倒しにして、世界のトレンドに合わせざるをえなくなったのである。

 今年の3月11日、トヨタの豊田章男社長(日本自動車工業会会長)は、異例の記者会見を開き、「このままでは日本は自動車を輸出できなくなる」と訴えた。

 現在、日本の自動車産業は、関連産業を含めて約550万人の雇用を創出している。 「もし、今後、世界のEV規制により輸出ができなくなると、そのうち70~100万人の雇用が失われ、15兆円の貿易黒字がなくなる」と、豊田社長は続けた。

 これは、政府に対して、腹をくくってくれという要求でもある。

 言うまでもなく、世界でもっともEV化が進んでいるのは、ドイツ、中国、アメリカである。ついこの間まで、カーボンニュートラル実現に向けては、いわゆるエコカーと呼ばれる何種類かのクルマが存在していた。 ・ハイブリッド車(HEV) ・プラグインハイブリッド車(PHV) ・電気自動車(EV) ・燃料電池車(FCV) ・クリーンディーゼル車(CDV) ・水素燃料車(HFV)

 このうち、ガソリンではなく水素を燃料とする水素燃料車をのぞいて、EVのみが生き残るのである。

(つづく)

 

この続きは9月1日(水)発行の本紙(メルマガ・アプリ・ウェブサイト)に掲載します。 

※本コラムは山田順の同名メールマガジンから本人の了承を得て転載しています。

【山田順】
ジャーナリスト・作家
1952年、神奈川県横浜市生まれ。
立教大学文学部卒業後、1976年光文社入社。「女性自身」編集部、「カッパブックス」編集部を経て、2002年「光文社ペーパーバックス」を創刊し編集長を務める。2010年からフリーランス。現在、作家、ジャーナリストとして取材・執筆活動をしながら、紙書籍と電子書籍の双方をプロデュース中。主な著書に「TBSザ・検証」(1996)、「出版大崩壊」(2011)、「資産フライト」(2011)、「中国の夢は100年たっても実現しない」(2014)、「円安亡国」(2015)など。近著に「米中冷戦 中国必敗の結末」(2019)。
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